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Sunday, January 3, 2021

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現在の核兵器は広島・長崎の1千倍以上 核兵器禁止条約の発効で「絶対悪」のルールを

2020年11月9日、被爆地の長崎で、アメリカ大統領選挙で国際協調路線を掲げる民主党のバイデン氏の当選が確実となったことを喜ぶ、座り込み参加者たち。日本にも核兵器禁止条約への参加を求め、横断幕を掲げた(写真/朝日新聞社)

(AERA dot.)

 核兵器は、人として守るべき道に合わず、違法だ─―。こう定めた初めての国際条約である核兵器禁止条約が、2021年1月22日から効力を持つことになった。世界の50カ国・地域が条約に同意する手続きの「批准」をしたためだ。小中学生向けのニュース月刊誌「ジュニアエラ」1月号は、この核兵器禁止条約について解説した。

*  *  *
 世界にはいま、約1万4千発の核兵器がある。そのうちの約9割が、アメリカとロシアのものだ。アメリカは1945年7月に初めて核実験を行い、同年8月に、広島と長崎に原爆を投下した。現在の核兵器はその1千倍以上の威力があるとされる。使い方次第では、人類を絶滅させることもできる。

 核兵器禁止条約が画期的なのは、核兵器について、「すべてなくすことこそが、二度と使われないことを保証する唯一の方法だ」とうたい、核兵器のあらゆる開発や実験、生産、保有、使用を禁じたことだ。

 これまでも核兵器は、野放しだったわけではない。70年に発効した核不拡散条約(NPT)は、世界の191カ国・地域が加盟し、核兵器が世界に広がらないようにする歯止めの役割を担ってきた。

 ただ、NPTは核兵器を違法とはしていない。60年代までに核兵器を手にした米ロ英仏中の5カ国には保有を認め、それ以外の国には保有を禁じるという内容だ。核を減らすための軍縮交渉を義務づけてはいるが、実際には核はなかなか減らず、核を持たない国から「不平等だ」という批判が上がっていた。また、NPTではインドやパキスタン、イスラエル、北朝鮮が核を持つことも防げなかった。

 一方、核兵器禁止条約は発想が異なり、核兵器を全面的に禁止する。「核兵器の保有をちらつかせることで、相手に攻撃を思いとどまらせる」という「核抑止」についても威嚇(脅し)にあたるとして禁じている。

●アメリカなどの核保有国や「核の傘」に依存する日本は未署名

 しかし、これで核兵器廃絶が大きく進むかといえば、そう単純ではない。

 核兵器禁止条約は批准した国だけが法的に拘束され、未加盟の国への強制力はない。現時点では、いずれの核保有国も、核兵器禁止条約に署名も批准もしていない。日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国といった安全保障政策を米国の「核の傘」に依存している国も、同様だ。

 それでも、国連加盟国の約4分の1にあたる50カ国が率先して核兵器禁止条約に批准したのは、「核兵器は絶対悪」というルールを国際社会に広げることで、核保有国が核兵器を使いづらくなり、核軍縮が早まると期待しているからだ。実際、核兵器禁止条約が採択された2017年以降、大手銀行が核兵器を製造している企業への融資をやめるなどの動きも出てきた。

 国連での核兵器禁止条約の採択を後押しした国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」がモデルにするのは、先に禁止条約が発効している対人地雷やクラスター弾といった非人道兵器だ。1999年に発効した対人地雷禁止条約は、現在は世界の160超の国が加盟する。アメリカはいまも条約に入っていないが、対人地雷の対策費に世界最大のお金を出し、備蓄する地雷の数も減らした。目加田説子・中央大学教授は「核兵器禁止条約ができたことで、核保有国は自国の考えだけで行動しにくくなり、核に関する情報公開にも応じざるを得なくなるだろう」とみる。

●核廃絶を求める世論が世界で高まるかがポイント

 日本政府は、国際社会では「唯一の戦争被爆国」とアピールしてきたが、今後も核兵器禁止条約に参加しない考えだ。米国の「核の傘」に依存する安全保障政策に反すると考えているからだ。加藤勝信官房長官は発効が決まった直後の10月下旬の記者会見で、「我が国のアプローチとは異なる」と否定的な見方を示した。

 日本周辺では中国が核兵器の近代化を進め、北朝鮮の核・ミサイル開発も止まっていない。いますぐ、米国の「核の傘」から抜け出すのは難しい現実がある。ただ、このままでは核軍縮での日本の影響力が低下しかねないと、与党の自民党や公明党内からは「せめて締約国が開く会議にオブザーバーで参加すべきだ」との声も上がっている。

 ICAN等は次の目標を、国連加盟国の半数を超える「100カ国・地域の批准」と定めている。批准国が増えれば、核保有国への風当たりが強まるからだ。今後、世界で核廃絶を求める世論がどこまで高まるかがポイントになりそうだ。

【核の傘】
核保有国が核を持たない同盟国に対し、核攻撃を受けた場合には自国の核兵器で報復することを約束し、安全を保障すること。アメリカは、日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する欧州諸国など同盟国に加えられた攻撃は、アメリカへの攻撃と同様にみなして報復するとの保障を与えている。

【国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」】
核兵器禁止条約の成立をめざし、国連での条約の採択や、各国政府に署名・批准を促すロビー活動を行う国際的なNGO(非政府組織)の連合体。2017年にノーベル平和賞を受賞。30代の女性が事務局長を務めるなど、若い世代が活動の中心を担う。

(朝日新聞大阪本社社会部・武田肇)

※月刊ジュニアエラ 2021年1月号より

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