1987年に絶滅したキモモミツスイを復活
VRは今後なくなっていくものや場所、その時しか存在しないものや場所を記録することで、空間を保存することができます。また、過去に存在した人や生き物をCGや映像、音声、インタラクションなどの様々な技術を使って復活させたりすることも得意です。
以前、1964年当時の渋谷を復活させるプロジェクト「1964 SHIBUYA VR」が話題になったり、この連載でも紹介した「Mona Lisa: Beyond the Glass」は会ったこともないモナ・リザの姿を見事にVRで復活させていました。今回紹介するのはハワイのカウアイ島に生息し、1987年に絶滅した「ōʻō(以下:キモモミツスイ)」の貴重な姿を手描きアニメーションで復活させたVR作品「Songbird」です。
オススメのポイント
1. 本物の音声を使って伝説の鳥を復活
作中で使用されている音声は全て本物です。カウアイ島の熱帯雨林の音、小鳥たちのさえずりは実際に現地で録音したそうです。そして絶滅してしまったキモモミツスイの美しい歌声は1976年にジム・ジャコビ博士によって録音されています。
ジャコビ博士はこの伝説の鳥を見た最後の人物の1人だと言われています。この作品は科学者ジャコビ博士がカウアイ島の自然や生物を案内し、キモモミツスイと出会った当時の貴重な話を聞きながら体験する作品になっています。
また過去にジャコビ博士が録音した音声と改めて現地で録音した音声を使ってイマーシブ3Dオーディオ(立体音響、3Dサラウンドなどのこと)を作成しているため、音だけ聞いていても非常にリアルに現地にいる感覚になります。できれば静かな部屋でヘッドホンを使って体験して欲しいです。
2. 手描きアニメーションの魅力
この作品は油絵で描かれたようなとても印象的な手描きのアニメーション作品です。カウアイ島の自然やカラフルな鳥たちの姿が丁寧に描かれています。CGのようにリアルな見た目ではないのですが、手描きにすることによって、より作者の思いが伝わってくる気がします。
例えばカウアイ島の自然の表現は忠実に描かれています。キモモミツスイに関しては実際の見た目は脚に黄色い羽根が付いた黒い鳥なので、写真で見るとそんなに愛らしい鳥ではありません。しかし、アニメーションでは少し可愛らしく描かれている気がします。
また、キモモミツスイの楽しそうに歌う姿や悲しそうな表情も描かれており、作者の愛情が伝わる描き方がされています。
3. ハワイのカウアイ島に旅をした気分になる
冒頭、自分が鳥になったようにカウアイ島の上空を飛んでいるシーンから始まります。上空から見るカウアイ島はすごく綺麗です。島に降り立つと多種多様な鳥がいるのが印象的です。色々な方向から様々な鳥たちの鳴き声が聞こえて気持ちの良いシーンです。
「Songbird」は3DoF版と6DoF版で制作されています。おそらく最初は6DoF版で制作されていたのではないでしょうか。物語の始まりが崖の上から始まるのですが、6DoF版で見ると崖の先端に移動して下を覗くことできるので、アニメーションとわかってはいるのですが、ドキドキしました。
また、森の中のシーンではキモモミツスイが目の前の木の枝にとまっている際には近寄って眺めることができます。逃げ出してしまうと思われる近さまで近づけるので、実際にはできない貴重な体験だと思います。3DoF版でも十分、そこにいる感覚は味わえます。
ただカウアイ島を旅するだけではなく、最後、体験者はジャコビ博士となり、島に住む唯一のキモモミツスイを発見し、貴重な歌声を録音することに成功します。ちゃんと録音されたかを確認するためにテープレコーダーを再生すると、録音されたキモモミツスイの歌声が森の中に響き渡ります。その録音された歌声を聴いて、キモモミツスイが仲間が現れたと思って、ジャコビ博士(=体験者)の近くまで寄って来ます。
最初、貴重なキモモミツスイが間近で見られることで感動するのですが、仲間を探すキモモミツスイの健気な姿を見て切ない気持ちになりました。
作品データ
タイトル |
Songbird |
ジャンル |
アニメーション |
監督 |
Lucy Greenwell |
制作年 |
2018年 |
本編尺 |
約10分 |
制作国 |
イギリス / デンマーク |
視聴が可能な場所 |
6DoFバージョン:Viveport |
Trailer
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