成長期に入ったネット動画配信
ネットの動画配信は、すでに物珍しさを超えて、新しい産業として成長スパイラルに入ったようだ。
例えばテレビがやらない議会やスポーツの中継はもちろんのこと、人を集めることができない状況での発表会、説明会、セミナーも盛んになっている。また学校ではいつでも授業をオンライン化できる状態でスタンバイしているし、実際に今も対面とオンラインの両方で授業を行なっているところは多い。つまり、1対多でなにかするという行為が、ことごとくネット配信の素材となりうる状況になった。
そんな中、多くの人が複数のソースを扱うためのスイッチャーに興味を持ち始めたというのは、コンシューマ映像文化としては大変な成長だと言える。価格もどんどん下がっていき、今や10万円以下でもかなりのことができるハードウェアが手に入るようになった。
Rolandでは、VシリーズやVRシリーズが早くからネット中継を始めとするライブイベントで導入されており、ヒット商品も多い。ハードウェアスイッチャーとして、プロからコンシューマまで幅広く売れているのは、RolandとBlackMagic Designぐらいだろう。
そんなRolandから、約5万円の小型ビデオミキサー「V-02HD MK II」が発表された。発売は9月24日で、店頭予想価格は50,000円前後。MK IIという型番からわかるとおり、2018年発売の「V-02HD」の後継モデルとなる。初代機は実売75,000円前後だったので、機能も増えて価格も下がった事になる。
またV-02HD MK IIの発表と同時に公開されたのが、スマホやタブレットをワイヤレスで連携させ、映像入力機能を追加できる「AeroCaster Switcher」と「AeroCaster Camera」のセットだ。これはある意味ワイヤレスカメラとソフトウェアスイッチャーの組み合わせであり、既存のスイッチャーにフレキシブルにカメラを追加できる、かなり強力なツールである。
今回は新製品「V-02HD MK II」+ 「AeroCaster」という組み合わせで何ができるのか、実際に試してみたい。
見た目以上に大きな進化
初代V-02HDは、HDMI2入力のスイッチャーであった。2入力ぐらいだと普通は「切替器」という扱いになるのだが、2入力それぞれにスケーラーを備えたことで、入力信号の同期も自動引き込み、解像度も問わない、ミックスやワイプ、PinPも可能、さらにはビデオエフェクトも搭載ということで、2入力しかないがちゃんとしたスイッチャーだった。またフットペダルでの操作に対応したのも、これが最初だった。
小規模な配信、例えばゲーム画面とカメラをPinPした状態でずっと中継するといった使い方もできなくはないが、用途は別にあった。例えば中継カメラマンが、自分のカメラの絵とライブ配信中の映像を1モニターで見るために使うわけである。フットスイッチで切り替えられるので、両手がふさがっていても操作できるとして好評だった。また既存のスイッチャーにちょっと入力を拡張するとか、あるいは2つの中継システムを切り替えるとか、そうした用途でも使われてきた。
ただ、スイッチャーとしてはHDMI出力が出るだけだったので、現場でディスプレイに出すといった用途には強いものの、これでネット中継を行なうにはHDMIキャプチャーユニットなど、別途配信用の機材が必要だった。
一方今回発売されるV-02HD MK IIでは、USBポートがUSB-TypeCに変更され、スイッチャー出力映像をPCなどに向かってストリーミング出力できるようになった。出力解像度は最高1080/60p。PC上ではUSBカメラとして認識されるので、配信ソフトで映像・音声入力をV-02HD MK IIに設定するだけでOKである。基本的なオペレーションは初代と変わっていないが、この差は大きい。
加えて外部音声入力が1系統追加され、2系統となった。HDMI入力の2系統にUSBからのループバックも合わせると、合計でステレオ5系統、10chのオーディオが使える。またそれぞれにディレイやエフェクトが設定できる。
音声機能は、本体のコントローラだけですべてを操作するのは難しい。そこで本機では、iPad用のコントローラアプリ「V-02HD MK II Remote」が提供されている。iPadと本機をUSBで接続、本機の内部機能を直接叩くというものだ。映像操作は本体パネルで、音声操作はiPadでと、機能ごとに分けて操作することもできる。これまでちょっとした音のポン出しなどに別途ミキサーを用意していたケースでは、機材を減らしてコンパクトにすることができるだろう。
エフェクトは、用途別としてミーティング、インタビュー、アンビエントマイク、ウインディフィールド(風切音減衰)といったプリセットが用意されている。音のことなんてわからないけどどうすりゃいいの、という人は、まずプリセットを試してみて、そこからいじっていって学べるようになっている。
入力が足りない……を解決する「AeroCaster」
9月14日に公開されたのが、iPadおよびiPhoneを使ってマルチカメラシステムが組める「AeroCaster」だ。これはスイッチャーとしての母艦となるiPad用の「AeroCaster Switcher」と、サテライトカメラとなるiPhone用の「AeroCaster Camera」から構成されるシステムである。
これだけだと正直何のことだかさっぱり要領を得ないと思うが、全部が同じWi-Fiに繋がっている環境下で、複数台のiPhoneのカメラの映像をiPadに飛ばし、iPad上でそれをスイッチングするという、ワイヤレス中継システムが作れるというわけである。
価格は無料。ただしRolandのスイッチャーと組み合わせて使うことが前提のため、同社のスイッチャーをPCなりに繋いでアクティベーションする必要がある。アクティベーションが完了したら、あとは単独でも使用することができる。対応スイッチャーは、以下の通り。
iPad側の動作条件は、iOS 14以降で、Apple A12プロセッサー以上となる。またiPhone側の動作条件は、iOS 13以降、CPU Apple A10プロセッサー以上 (iPhone 7以降を推奨)となっている。カメラ側は若干条件がゆるいので、使えるモデルは多いだろう。
このセットがあればスイッチャーはいらないのでは、と思われるかもしれないが、AeroCasterは音声が扱えないので、純粋に映像ソースだけを拡張するシステムという立ち位置である。ただ、2入力しかないV-02HD MK IIのような機器では、映像だけでも追加できれば全然意味合いが違ってくるはずだ。
「AeroCaster Switcher」のスイッチング結果は、LightningまたはUSB-TypeC端子からHDMIに変換し、ハードウェアのスイッチャーに入力する。そのため、別途iPad用のDigital AVアダプタが必要になる。
「AeroCaster Camera」は、アプリを入れて起動するだけなので、ほとんど手間はかからない。純正カメラアプリ以外のアプリを使ったことがある人なら、難しくはないだろう。
一方「AeroCaster Switcher」は、かなり本格的なソフトウェアスイッチャーとなっている。最大5つのカメラソースの切り替えほか、トランジションの選択、さらにはiPad内にある動画や静止画もソースとして出力することができる。iPad内のカメラも、カメラの1つとして利用することができる。またGoogle Chromeを使って、PC画面の共有も行なえる。
簡単に使えて安定性が高い
では実際に、V-02HD MK IIにAeroCasterを接続して、テストしてみよう。今回作ったシステムは以下の通りである。
iPad miniのAeroCaster Switcherには、iPhoneを3台、Wi-Fiで接続している。実際にはルーターを経由しているわけだが、ここでは便宜上直結で表示している。このiPadの出力をHDMIに変換してV-02HD MK IIのHDMI 2へ入力。HDMI 1には通常のカメラを直結した。
V-02HD MK IIに直接繋いだカメラと比べると、iPhoneのカメラはWi-Fi経由で接続しているため、ディレイがある。筆者宅で構築した限りでは、だいたい12~13フレーム程度である。HDMI直結のソースと合わせる場合、楽器演奏やゲーム配信など、リアルタイムのリアクションが重要なコンテンツでは厳しいかもしれないが、同期がシビアではないリモートカメラなどには便利に使えるだろう。
またV-02HD MK IIでは、音声にディレイが設定できるため、カメラからの音声にディレイを入れて、AeroCasterの映像の遅延と合わせることができる。
またAeroCaster内のカメラであればだいたい同じぐらいのディレイなので、普通のスイッチングには問題ない。映像もなかなか綺麗でコマ落ちも少なく、しかも完全ワイヤレスなので移動も効く。
またAeroCaster Switcherはなかなか高機能で、プリセットされたPinPや2画面スプリット間にもトランジションがかかる。通常のスイッチャーでここまでやろうとするならば2M/Eスイッチャーが必要になるところだ。テロップも載せたままにしておけるなど、レイヤー型の良さも取り入れている。
加えてiPad内の動画や静止画もポン出しできる。あいにく現時点でのAeroCaster Switcherは音声が扱えないので、動画内の音声を使うことができないが、他メーカーならともかく「音のローランド」がこのままこの状況をほっとくとは思えないので、そのうちアップデートで音声もサポートするかもしれない。
総論
V-02HD MK IIは、ハードウェアとしてはステレオ音声の追加やUSBでのストリーム出力のサポートが目玉である。また表から見えない機能としては、映像や音声のエフェクトが強化され、iPadのコントローラアプリと合わせることで、破格にオペレーションが拡張できるという特徴を持っている。
唯一の弱点は、映像入力が2系統しかないところだが、AeroCaster Switcherは、カメラとして5入力、映像ポン出しとして5系統を利用することができる。これと組み合わせると、むしろAeroCasterのほうがメインスイッチャーで、V-02HD MK IIはミキサー件配信用キャプチャーボックスとして機能するという、逆転の使い方が可能になる。
もちろんAeroCasterは、V-02HD MK II専用というわけではなく、もっと上位のスイッチャーでも利用できる。Wi-Fi接続なので、電波状況に左右されやすいという弱点はあるものの、あと2〜3台カメラが欲しいという場合には、大いに助かるソリューションだろう。
まだ最初のリリースではあるが、動作としても安定しており、接続のトラブルなどもなかった。Rolandのスイッチャーユーザーであれば、使わないのが勿体ないセットである。
からの記事と詳細 ( “入力足りない”を解消! カメラ拡張Roland AeroCaster×V-02HD MK IIの凄さ - AV Watch )
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科学&テクノロジー
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