海外レポート
米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今年1月にインドで開かれたAI(人工知能)に関する国際的なカンファレンスに参加したアナリストが、議論の模様を紹介します。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
医療業界でAI導入が遅れているのはなぜか
Decision Resources Groupバイオ医薬品情報部門のシニアディレクターGarima Kaulは、1月24日にインド・ニューデリーで開かれたカンファレンス「AI Conclave 2020」(主催・BMLマンジャル大学)にパネリストの1人として参加した。このカンファレンスで行われた、医療業界におけるAIの活用をテーマとした議論について、Garima自身が紹介する。
ネット通販サイトで商品を注文すると、よく購入されているほかの商品へと誘われ、つられてSNSのアカウントにログインしてしまい、SNS上でもそのサイトのおすすめ商品の広告を目にする羽目になる。その商品の広告が画面に表示されるのは、背後でAIが見えない手のように働き、パターンベースのアルゴリズムを実行し、ユーザーの好みに基づいてデータと情報を選り分けているからだ。
こうしたAIの使用例は多くの業界で見られるが、医療業界では事情が大きく異なる。解熱鎮痛薬パラセタモールを注文しても、咳止めシロップを勧める広告は出てこない、同様に、ある受容体をターゲットとする薬に興味を示しても、類似したほかの薬を勧められることもない。
医療業界でAIの導入が遅れているのはなぜか。医療業界のAI活用はどんな状況を迎えようとしているのか。
医療への活用 使途は無数に存在
AIは世界で最も進歩が著しい技術であり、業界は2014年の約6億ドルから2026年までに1500億ドルに成長すると見込まれている。医療は規制が厳しく、AIへの適応が最も進んでいない分野の1つだが、8.5兆ドル規模のこの市場にはAIの使途が無数に存在している。
ある分子を治療薬として市場に投入できる確率は12%に満たず、1つの分子を研究室からベッドサイドに届けるには12年以上の歳月がかかる。しかも、その費用はどんどん増えていて、今や20億ドルを下らない。医薬品には、さまざまな理由で製品化に失敗した何千もの化合物の研究開発費を賄うだけの値段が付けられる。
時代は急激に変化しており、AIはもはやSFの話ではなくなったが、医療業界においてはまだ実現の途上にある。AIは、医療従事者や介護者に役割に影響を及ぼし、彼らにも患者にも計り知れない利益をもたらし始めている。
責任を負うのは誰か
AIが有意義なアウトプットを生むには大量のデータが必要だ。AIのプログラムには、その構築法や入力データに起因する本質的なバイアスがある(性別や人種など)。プログラムはパターンベースのモデルであるため、データセットの幅が狭い場合や、インプットデータの差がマイナスワードの選択肢同士の差である場合、一般法則化は難しくなる。データのアウトプットはインプットデータの質を超えることはないと肝に銘じておくべきだ。
医療のように限定的で規制の厳しい業界では、倫理的な問題やデータの機密性に対する懸念、AIが判断をミスした場合の法的責任の帰属に関する不安があり、AI応用の障壁は高い。問題が起こったとき、異議申し立てを受けるのは誰か。法的責任を負うのは、ロボットか、プログラマーか、メーカーか、それとも医療従事者か。
どの業界でも、AI活用の成功は組織の姿勢と方向性に大きく左右される。テクノロジー、データ、人材、そしてプロセスが、互いに共生関係を築くことが必要だ。技術者やデータサイエンティストだけがAIを使っているような状態では、AIがビジネスを一変させる力を発揮することはできない。幅広い戦略構想の一部として、あらゆる職務や部門に組み込むことが重要だ。
コスト削減と生産性向上の手段とみなすべきではない
AIをコスト削減と生産性向上の手段とみなすべきでもない。AIは、ビジネスの成長と収益を誘発し、それを加速させる触媒なのだ。データは放っておいても何も語らないが、インテリジェンスでそこから洞察を導くことができる。
データの流出や損失、データポイントの連結不能が起こると、薬剤開発のプロセスに著しい遅れが生じるし、患者の治療過程に影響を及ぼしたり、誤診を引き起こしたりしかねない。それでもAIを活用することで、電子記録の更新や報告書の作成といった反復型の管理業務から、診察、より適切な診断、予防、手術といった患者中心のタスクに重点が移り、患者体験を改善できると期待されている。
AIが医療従事者や保険会社、そして患者の体験を向上させているのは事実だ。これは一大転換であり、逃れるすべはない。大企業はどこも、この巨大な変動に適応して先へ進もうと、テクノロジーに力を入れている。それが医療の可能性を高め、医療専門家を絶滅させるのではなく進化させると考えられるからだ。医療者がより効率的・効果的に働くのをAIがサポートすることで、治療成績の向上につながるだろう。
(原文公開日:2020年2月6日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
齋藤(コマーシャルエクセレンス ディレクター)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-6625-5257(代表)
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