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Saturday, February 15, 2020

『約束のネバーランド』子どもたちの本当の敵は鬼ではない? 骨太なファンタジーが投げかける難問(リアルサウンド) - Yahoo!ニュース

 週刊少年ジャンプ(集英社)で連載している『約束のネバーランド』(1~17巻)は、白井カイウ(原作)と出水ぽすか(作画)による少年漫画だ。舞台はGF(グレイス=フィールド)ハウスと呼ばれる孤児院。11歳の少女・エマは施設の中で孤児の子どもたちとママと呼ばれるイザベラに見守られ、幸せな日々を送っていたが、ある日、自分たちが鬼の餌となる食用児として育てられていたことを知ってしまう。エマは頭脳明晰なノーマン、レイと共に、施設からの脱出を計画し、着々と準備を進めていくのだが、やがて残酷な現実を知ることになる……。

【写真】最新刊書影

 まず驚くのは第1話だろう。流麗な絵で描かれた牧歌的で優しい世界が一皮めくると不気味な鬼たちが支配する残酷な世界だったという反転は、子ども向けになる以前のグリム童話が内包していた恐ろしさを彷彿とさせる。

 何より恐ろしいのは、母親が敵だということ。子どもにとって母親は自分を庇護してくれる絶対の存在だ。そんな母親が、鬼の餌として自分を育てていたのである。70年代に母親が理由もなく子どもを殺す姿を描いた『ススムちゃん大ショック』という永井豪の短編ホラー漫画が反響を呼んだが、本作もまた、子どもにとって一番の恐怖を描いた漫画だと言える。幼少期に読んでいたら、相当トラウマになっていたと思う。

 主人公のエマが11歳の女の子だというのも少年ジャンプでは異色の設定である。つまり描かれるのは娘(エマ)と母(ママ)の戦いで、どちらかというと少女漫画的なモチーフだが、あまり意識せずに少年漫画として楽しめるのは、エマが少年のようなキャラクターであることと、心理描写と設定が細密で、ビジュアルの説得力が圧倒的だからだろう。

 物語は1巻から5巻の37話までが、エマが子どもたちと共にGFハウスから脱出する話。それ以降が、鬼が支配する世界を放浪しながら、エマたちが安心して暮らせる場所を探す居場所探しの物語となっていくのだが、序盤の脱出編がダントツの完成度を誇っている。

 設定として上手いのは敵が重層化されていること。エマの戦う相手は鬼と、鬼に従うママたち人間の大人だが、脱獄の計画を練る過程でエマ、ノーマン、レイの意見は衝突し、三人の間でも駆け引き(戦い)がある。中でも意見が割れるのが「誰をつれて行くのか?」という問題。

 エマたち三人なら無事逃げることができるが、残された子どもたちは食用児として出荷されてしまう。しかし、小さな子どもたちを連れていくと足手まといになり、全員が命を落としかねない。

 優しいエマは一人も犠牲を出さず、みんなで逃げたいと言う理想主義者。しかしノーマンとレイはエマとは違う現実主義者で「みんなが助かることは無理だ」と思っている。そして同じ現実主義者でもノーマンとレイでは考え方は違い、意見の相違によって物語は意外な方向へと転がっていく。「目的のために犠牲は許されるのか?」という問いは、何度も繰り返される本作のテーマだ。

 同じファンタジー系の少年漫画では荒川弘の『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)が「等価交換」、少年ジャンプでは冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』(集英社)が「不自由な二択」を通して、この問いと「そこからの脱出」を描いてきた。

 鬼と人間の世界の調和のために、子どもたちが食用児として犠牲になっている『約束のネバーランド』は、この二作のテーマを引き継ぐ形で、新しいファンタジー漫画に挑んでいるのだ。

 巻が進むごとに物語のスケールが大きくなり、17巻では鬼たちの支配に反旗を翻したノーマンが、食用児の戦士たちと共に鬼を絶滅させるための戦いを挑む。

 一方、エマは「ノーマンは正しい!」「でもそれは全部確率の正しさでしょ!」と反対し、すべての食用児たちを人間界に戻した後、鬼と人間の世界を切り離すため「7つの壁」と呼ばれる場所へと向かう。そして、エマといっしょに孤児院から逃げ出したドンとギルダは、鬼が人間を食べなくても退化しない「邪血」の力を持った鬼・ムジカを探す旅に出る。

 このあたりになると、鬼の社会構造や鬼が抱える食糧問題まで描かれるようになり、ファンタジーとして、物語はより複雑化していくのだが「目的のためなら犠牲は許されるのか?」というテーマは終始一貫している。同時に繰り返し描かれるのが「大人と子どもの対比」だ。

 実は本作の中心にあるのは、鬼と人間の戦いではない。描こうとしているのは子どもを犠牲にする(生きることに絶望した)大人たちと、閉じ込められた世界から脱出しようとする(生きることを諦めない)子どもたちの戦いである。つまり序盤の脱出編を、形を変えて反復しているのだ。

 だからこそ本誌連載では、大人側を代表するママ(イザベラ)が再登場し、ラスボスとして立ちはだかる。彼女の真意はすでに5巻で描かれているが、果たして彼女は本当に敵なのか? 再登場したママとエマはどう対峙するのか? 固唾を飲んで見守っている。

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February 15, 2020 at 01:56PM
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