ご存じでしたか? '20年発売の新しい40型4Kテレビってアクオスだけなんです
いまや4Kテレビは普及期を迎えており、選び放題だ。ただ、大画面サイズの製品が多く、数年前は選ぶことができた“40型ジャスト”の現行4Kテレビはほとんど姿を消した。これは、大手電機メーカーの4Kテレビ製品が、その中核パーツである映像パネルの供給を海外製に依存しているからだ。そう、2020年モデルの4Kテレビの最小サイズはほとんどのメーカーで43型になってしまったのである。
そんな“4Kテレビの大画面化”が止まらない中にあって、唯一、日本で映像パネルを自社製造しているシャープのアクオス(AQUOS)だけは、40型サイズを今年も死守している。ただし世相を考えれば、今後シャープもいつ40型をやめるか分からない。
というわけで、前回の「デカすぎない4K有機ELレグザ48X8400」(第257回)がなかなか好評だったこともふまえ、今回の大画面☆マニアは“絶滅危惧種、買うならいま!”というキャッチコピーを掲げたい、シャープの40型4Kアクオス「4T-C40CL1」(9.5万円前後)を取り上げる。
前回同様、40型クラスは、デスクトップ用ディスプレイとしても活用が見込まれるので、その視点の評価も行なっていく。
製品概要チェック~意外に高音質なスピーカー。充実の接続性
4T-C40CL1の寸法はスタンド込みで901×253×603mm(幅×奥行き×高さ)。前回取り上げた“4K有機ELテレビ最小”の48X8400と比べると、40型のC40CL1はやはり実感として小さく軽く感じる。重さはディスプレイ部だけでは約13.0kgで、筆者が一人でディスプレイ部を2階に運び自ら設置できた。スタンド込みの場合は約17.5kg。一度設置したあとの位置ずらしも、それほど苦なく行なえた。
ディスプレイ部の厚みは約8.3cm。厚みはそこそこにあるが重くはない
スタンド部はディスプレイ部の中央の背面に組み付けられ、その接地部の底面積は544×253mm(幅×奥行き)となる。設置台からの"はみ出し"を許容していいならば、意外と小さな台にも置ける。
接地面からディスプレイ部下辺までの隙間は、実測で約60mmとやや低め。テーブルに置いて目の前に座ると、身長175cmの筆者で目の位置はディスプレイ部上辺付近にくる。こうした見え方は見づらいので、できれば上方向の仰角が欲しいところだが、残念ながらチルト機構はない。なお、左右±15度のスイーベルには対応する。
チルト機構がないのは残念。左右±15度のスイーベルには対応する
スタンドは最近流行の低背タイプ。接地部の底面積は544×253mm(幅×奥行き)と、画面サイズからみればまあまあコンパクト
ディスプレイ部の額縁は、筆者実測で上辺約9mm、左右辺約11mm、下辺約48mmといったところ。下はスピーカーなどの構造物があるのでそうでもないが、上と左右はひとたび映像を映せばほとんど額縁レスに近い印象だ。
アクオス4K「CL1シリーズ」は全4サイズ。写真左から55型(4T-C55CL1)と、50型(4T-C50CL1)
写真左から43型(4T-C43CL1)と、今回の40型(4T-C40CL1)。パーソナルユース、もしくはデスクトップユースを想定するならば、40型を推す
スピーカーは本体下部左右にレイアウト。スピーカーユニットは下向きだが開口部を前面方向にも向けることで、迫力ある出音を実現している。出力は左右10W+10Wで合計20W。
下部のエンクロージャーサイズと筐体サイズ、そしてフルレンジユニットを左右一基ずつだけで出している音とは思えないほど良好だ。音量を大きくしても破綻しないのも立派。テレビの音声を普通に楽しむには十分な性能があると感じる。
「帯域拡張」設定を「低域」とすれば、低音のパンチ力も増す。サラウンドサウンドにこだわらなければ、ゲームプレイにも不満はないだろう。また設定を「低域+高域」とすると、ハイハットやライドシンバルのような高周波の音も聞き分けられるほど粒立ちがよくなる。今回の評価では、筆者はPC等を繋いで本機でMP3を流してジュークボックス的な活用も行なっていた。
搭載するスピーカーのイメージ。ユニットは下向きだが開口部を前面にしたデザインで、音質はなかなか良好
最近の薄型テレビのスピーカーの音質向上はどうやら、各社で採用が進むVIRフィルタ(Variable-resolution Impulse Response Filter)の効果が大きいようだ。本機もEilex社のVIRフィルターを採用していた。テレビの内蔵スピーカーの音質にこだわりたいユーザーにとって、このフィーチャーは選択ポイントになってくるかも知れない。
定格消費電力は約125W。間消費電力量100kWh/年。40型前半台画面サイズの液晶テレビとしては標準的な値だ。
接続端子は、正面向かって左側の側面と背面にある。
側面にHDMI端子やUSB端子、背面側にアンテナ端子などの常時接続する端子がならぶ
HDMI入力端子は側面側に4系統を配備。全てがHDMI 2.0に対応し、4K/HDR/60Hzの入力に対応する。ARCにはHDMI 2が対応する。
上が、HDMI 2.0の伝送速度18Gbpsモードに相当する。下は伝送速度10.2Gbpsモードに対応したもので、HDMI 1.4以下に意図的に下げて活用するモード
他にも、側面にはヘッドフォン/ライン出力兼用3.5mmステレオミニジャック、録画HDD接続専用USB 3.0端子、汎用用途のUSB 2.0端子を実装する。この汎用USB 2.0端子は、筆者が実験したところ、動画、静止画、サウンドを収録したUSBメモリ、キーボード、マウスが接続可能であることを確認した。これらの使用感については後述する。
背面側には、地デジ/BS・CSデジタル放送用のアンテナ端子がそれぞれ1つずつ、ネットワーク接続用のLAN端子、光デジタル音声出力端子、アナログAV入力端子が実装されている。そのアナログAV入力端子は、3.5mmの“4極”ミニジャックに対応した端子になっており、赤白のアナログステレオ音声と黄色のコンポジットビデオを1つに集約した市販の変換ケーブルを用意しなければ利用できない(本機の商品セットには含まれていない)。
なお、ここは「外部端子・ファミリンク」-「入力3音声設定」を設定することで、任意のHDMI入力系統とペアにできるアナログ音声入力端子としても利用可能。この設定にした場合は3.5mmの“3極”ステレオ音声ミニジャックが利用できる。これは、本機とPCを、一部のDVI端子のような「音声を伝送できない手段」で接続した際の救済として用意されるものとなっている。
HDMI音声入力とするか、アナログAV入力端子を活用したアナログ音声入力とするかを選択する設定メニュー
電源投入後、地デジ放送が表示されるまでの所要時間は筆者実測(以下同)で約4.5秒。そして、地デジのチャンネル切換所要時間は約2.5秒で、近年のテレビ製品では標準的な速度。一方でHDMIの入力切換所要時間は約1.5秒と、ここは他社製品と比べて早いようだ。
リモコンは一般的なテレビリモコンよりも細身で縦長のバー形状デザインを採用。黒と白のツートンカラー配色がおしゃれだが、実はこれ、見た目だけのデザインではない。電波放送系と再生ナビゲーション系の操作をリモコンの黒色領域(上部)、ネットサービス系の操作系を白色領域(下部)に分けることで、直観的な操作をしやすくしているのだ。これはナイスアイデアと思う。
放送を見ている時にもアクオスの細かいアイデアに気が付いた。
まず、放送カテゴリの切り替えボタン[地上]、[BS]、[CS]、[4K]の4つのボタンのうち、[BS]は二度押しすると放送局名とリモコンの数字ボタンの対応の速見表が画面に表示されるのだ。リモコンのどの数字ボタンでBS放送各局が切り換えられるかは覚えていない人も多いと思われるので、便利に感じるはず。しかし残念なことにこの機能があるのはなぜかBSデジタル放送のみ。まだ親しみの薄い4K放送局にもこの機能は欲しいし、地デジ放送局も引っ越した先の新しい土地では「数字チャンネル番号と放送局」の対応がよく分からないので、あれば便利だったと思う。
放送カテゴリ[BS]ボタンを二度押しすると出てくる、各局直接呼び出し用数字ボタン対応画面
もう一つは静止[||]ボタンだ。放送番組視聴中に押すと、そのタイミングの静止画像と、動画としてのその番組の映像が横並びで表示されるのだ。各地の天気予報表、料理のレシピをじっくりみるのにも役立つし、情報番組などで活用すれば、番組中に示された図表を静止状態でじっくりと見ながら、MCやキャストの解説を聞くことができる。これもナイスアイデアの便利機能と思う。しかしこれまた残念なことに、この機能をHDMI入力画面には適用できない。また以前のアクオスにはあったHDMI入力映像と放送画面を横並び表示にできる「普通の2画面機能」も本機は非搭載である。
静止ボタン操作時の機能専用になってしまった2画面機能。なお、写真の画面の右は静止させた番組内の図版。画面左側には同じ番組のリアルタイム画面
充実のネットワーク機能。独自のココロビジョンがユニーク
本機のネットワーク機能についても紹介しよう。
結論から言うと、本機はかなりネットワーク機能に力を入れている。おそらくシャープは、この方面でテレビを進化させ、アクオスならではの魅力として育て上げる構想を描いているのだろう。
まず、本機はベースプラットフォーム(OSといってもよかろう)としてGoogleのAndroid TVを採用している。購入を考えている人も、ここはまず大前提として理解しておく必要がある。
そしてやや複雑なのが、Android上に、シャープ独自のAIエージェント「COCORO VISION」が組み込まれているところ。Android TVにもAIエージェントが載っているので、本機にはいうなれば2つのAIシステムが載っていることになる。
まず、Android TVの方だが、リモコンの[HOME]ボタンを押すことで、本機が提供する各種サービスのアイコンや、インストールされたAndroidアプリの画面が開く。そう、ここは、いうなればAndroidスマホでホームボタンを押したようなページに相当する。
例外はありそうだが、Google Playのストアで提供されているゲームや実用アプリをインストールして利用できた。試しに、Google Playでリリースされているゲームの「R-TYPE」をインストールしてみたが普通に遊ぶことができる。なお、ゲームコントローラはPC/PS3/PS4兼用のアケコン(HORI製RAP V4隼)を本機の汎用USB端子の方に接続したところ、普通に使えてしまった。さすがAndroid TVだ。
AQUOSに「R-TYPE」をインストールすることができた
惜しむらくは、Androidアプリを動作させると、全画面表示固定となり「画面アスペクト変更」機能が利用できなくなってしまうところ。
「R-TYPE」は4:3アスペクトのレトロゲームなので、この全画面表示仕様では具合が悪い。実際、本機に限らず、Android TVベースの国産テレビ製品では、Androidアプリを起動すると、途端に「テレビ側の機能の数々」が使えなくなってしまうモデルが多い。ここは各社に改善を望みたいところ。
アケコンを使って「R-TYPE」プレイはできたことに感動はしたが、テレビ側の画面アスペクト変更機能が使えなくなってしまうため、表示横長になってしまった。ゲームプレイ時にもアスペクト設定はできるようにして欲しい
(C)IREM SOFTWARE ENGINEERING INC. (C)2011 ported on Android by DotEmu SAS and distributed in Japan by Worker Bee Inc.
アケコンが使えたことに驚き、汎用USB端子にいろいろなPC周辺機器を繋いでみたが、キーボードとマウスはあっさり利用できた。地デジ放送視聴中にもマウスカーソルを動き回せるのが面白い。テレビ映像表示も、Android TVアプリとして動いているということなのだろうか。
ただ、マウスとキーボードの対応度は粗い。
例えば、リモコンで[YouTube]ボタンを押してYouTubeを起動し、その直後表示されるお勧めのYouTube番組アイコンは、マウスでラクラク選択可能。再生が始まると、その再生スライダーをマウスで任意のタイムラインまで瞬時移動が可能。ほとんどPCでYouTubeを見ているような快適さだ。一方、ABEMAでは、番組アイコン選択まではマウスで行なえるが、タイムライン操作には未対応だった。
キーボードも同様で、YouTube、ABEMAなどのVODサービスでは英字しか入力出来ず、日本語の入力に対応していない。もしかすると、日本語入力形のアプリをインストールすればなんとかなるのかもしれないが、日本語文字入力のような基本機能は最初から整備しておいて欲しい気がする。きめ細かなUX(ユーザー体験)を実現するのが得意なシャープならばきっと次期モデルではやってくれるはずだ。
本機はGoogleアシスタントにも対応している。リモコンの専用ボタンを押した後、リモコンに向かって話しかけることで、AIスピーカーの「Google Home」的な機能を提供してくれる。「インターネットで大画面☆マニアを検索」としゃべれば検索結果が出てくるので、これをUSB接続したマウスで選択できるし、「首都高5号線の渋滞情報を教えて」と話せば地図と共に渋滞情報を教えてくれる。
「YouTubeで西川善司を検索」をやってみたらちゃんと検索できた
パソコンチックに活用できる便利さがあるにはあるが、ここにも"むらっ気"がある。例えば「ABEMAで将棋を見たい」と話しかけると、「ABEMAは音声操作で呼び出せない」という旨のエラーが返ってくる。このような「なんでもできそう」という期待感の後ろには、いくつかの「こんなこともできないのか」という落胆が隠れていることがあり、ここが今のスマートテレビの活用が進まない一端があるような気がする。
一方で、シャープ謹製のAIエージェント「COCORO VISION」はどうか。
まあ、すでにNetflixだ、Huluだ、Amazon Prime Videoだと、これだけ数多くのVODサービスがあるので有料VODの「COCORO VIDEO」がどれだけ集客できるのかちょっと不安だが、邦楽に特化したサブスク型音楽サービス「COCORO MUSIC」や、シャープがいち早く目を付けてアクオス統合を進め、今でも力を緩める気配のないクラウドゲーミングサービス「COCORO GAME」などは、他社と比較してもユニークなので、ユーザーに今後どう受け止められていくのか見守っていきたいところだ。
[COCORO VISION]ボタンを押すと出てくるココロビジョンのホーム画面
今回の取材で、個人的に面白いと思ったのは「COCORO CALENDAR」だ。
簡単に言えば、家族でスケジュールを共有できるスケジュールアプリのようなものなのだが、AIエージェントらしく、ユーザーの居住地の近くで開催中のイベントの案内などを随時ゆるーくカレンダーに盛り込んでくれる。突発的にお出かけしたくなったときに役に立ちそうだ。
「COCORO CALENDAR」。家族の予定の他、自宅近隣地域で開催予定のイベントを表示してくれる
イベントの詳細についてもカレンダー起点で調べることができる
さて、いつものように入力遅延を、公称遅延値約3ms、1080p/60Hz(60fps)時0.2フレーム遅延の東芝レグザ「26ZP2」との比較計測を実施した。
計測解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)。測定した画調モードは、26ZP2側は低遅延モードに相当する「ゲーム」モード(「ゲームダイレクト」設定)に固定して測定。測定対象のAQUOS 4T-C40CL1は画調モード「標準」と「ゲーム」の2つで測定した。
結果は画調モード「標準」で約100ms、60fps換算で約3.0フレーム、「ゲーム」で約33ms、60fps換算で約2.0フレームの遅延となった。
「標準」の場合で約100ms、60fps換算で約3.0フレームの遅延
「ゲーム」では約33ms、60fps換算で約2.0フレームの遅延
実際「ストリートファイターV」などをやってみるとタイミングがシビアな連続技練習で若干の違和感を感じる(筆者はストVの腕前はSuperDiamondランクである)。格闘ゲームなどのリアルタイム性の高いゲームは、本機では「ゲーム」モードでもややきついと感じた。
実はアクオスは業界で最も早くから「ゲーム」モードを提唱した歴史がある。しかし、ここ近年は長らくこの約2フレーム遅延から短縮ができていない。競合各社が「ゲーム」モードでは、1フレーム以下遅延を達成してきているので、このあたりは頑張って欲しい。
総括~デスクトップにも使える唯一無二の40型4Kテレビ。遅延性能は今後に期待
スピーカーの音質はいいし、不得意な映像シーンは確認されたが、地デジ放送の画質は概ね良好。普段使いのテレビとしては悪くない。4Kチューナーも搭載。来年2021年開催の東京五輪対策もバッチリだ。
Google Android TV対応でネットワーク対応力も落ち度なし。各種VODサービスはもちろん、Android向けゲームまでプレイできてしまうのはスゴかった。シャープ独自のココロビジョンのおもてなしもユニークだ。
あと望まれるのは、モニターとして活用した際の機能改善だろう。全体的に暗い映像に弱い発色特性は映像制作には使い難いし、「ゲーム」モードで入力遅延約2.0フレームは今となっては競争力に乏しい。このあたりは次期モデルでの改善が期待される。
いまや4Kテレビとして絶滅危惧種の40型サイズのAQUOS「4T-C40CL1」。今回もデスクトップ使用を想定してテーブルに設置して評価していたが、やはり視距離50cmではこの40型サイズが「一望できる大画面」としては上限な気がする。その意味でAQUOS「4T-C40CL1」はいまや唯一無二の存在になろうとしている。
シャープにはこのサイズの4Kモデルを出し続けてもらいたいと思う。
額縁は割と狭め。視距離50cm前後で使うならば「丁度いい大画面」という印象