「我々は限りある失望を受け入れなければならない。しかし、無限なる希望を失ってはならない」とかつてマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師は言った。アメリカの人種と人種差別における新たな局面を迎えた今、希望は正義へとなりうるとキング牧師の娘、バーニスは考える。
現在、歴史的に見ても重大な局面にある。
アメリカだけではなく世界中の人々が、400年以上にわたり黒人が苦しめられ続けた歴史が生んだ悲惨な結果に直面している。世界中で人々の激しい情熱とエネルギーが増大し、苦悩と怒りが噴き出している。
これはアメリカだけではなく、白人至上主義と人種差別に苦しむ黒人の生活から利益を上げ、成長してきたすべての国家に対する強烈な告発だ。
世界的なパンデミックの最中だが、正義を求めて世界が揺れている。
「愛情のない権力は身勝手で人を傷つけ、力の抜けた愛情は感傷的で無気力だ」と私の父、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアは言った。
「最良の権力は正義を求める愛情のある行動であり、最良の正義は愛の障害となるすべてを正すことができる」
私は「希望を持っていますか?」とよく聞かれる。その時、正義について考える。意識のなかでは、希望と正義は深くつながっている。
希望という言葉の意味は薄っぺらなものではなくて、今の我々の立場と将来へのヴィジョンの理解が必要だ。
希望は、我々の強さを説得力に変え、何が達成できるのかを感じられた時に現実のものとなる。
そして、ともにその力を結集し、愛情の障害となるすべての社会構造やイデオロギー、条件に対して声を上げ、主張する時に我々は正義の行動をとっていると初めていえるのだ。
正義への道は私の希望の鼓動だ。正義を求める運動が続く限り、希望がある。
時折、運動が見えなくなる時がある。そういう時には、これまで何百年間も続いてきた不義と黒人に対する残忍な行為がこの先また何百年間も続くのかもしれないとさえ感じる。
より公平で人間味のある平和な世界を作り上げようと団結する気持ちが冷めてしまい、みんなが望むような世界を作り上げたいと思う人がほとんどいなくなってしまったのではないかと不安になる。
暴力を熱望する人々は平和を求める人々より目立つのだろう。希望を求める鼓動が聞こえにくくなる。けれどもその鼓動は確実に存在している。
そして今、希望に対する私の鼓動は激しくなっている。アメリカから人種差別をなくそうとする人々が想像を絶するほど多いからだ。逮捕数や有罪判決を超えたところに正義が存在するのだと多くの人が気づき始めている。
白人至上主義のイデオロギーに染まっているシステムやさまざまな機関、そして政策に全力で変化を与える努力をしなければならない。現実的な変化を求める人々の数が増えるにつれ、私の希望も高まる。
父は最後の著書、『WhereDoWeGofromHere:ChaosorCommunity?』のなかで、「政府が対抗できないほどの強い力を結集し、我々の要求を通すにはどうすればよいか。それが非常に難しい課題だ」と書いた。
「今はまだ選択肢がある。非暴力的に共存するか、暴力でお互いを絶滅させるか」と、父は言っていた。我々はその力を抑え切れないほど強烈な力に変えることができる。厄介な仕事だ。
けれども意味のない実刑を受けるよりは確実によいほうに向かうだろう。私たちの前には選択肢があるのだ。
カオスかコミュニティを選ぶか。
コミュニティを選べば、アメリカを愛をもって団結させ、世界をつなげることが可能になる。コミュニティを選べば、愛情がベースにある非暴力の世界を実現できる。我々はコミュニティを選べる。そうしなければ。
私は世間知らずのナイーブな人間ではない。アメリカの魂が病んでいるのも理解している。世界中で黒人が抑圧され、この先もそうなるということも理解している。
そのほか多くの暴力がこれからも人類に痛みを与え続けるだろう。けれども、将来私たちがなりうる姿を思い描いている。我々は正義を現実にできる。この強さを信じることが私に力を与える。
みんなが正義に向けて動いているのだ。私には希望がある。
TRANSLATION: NAOKO SUGIYAMA FROM Harper's BAZAAR November 2020
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