『マハーバーラタ』の隠れた主題は、「火」にあると考えられる。例えば、
・今回紹介する、ジャナメージャヤ王の蛇供儀
・アルジュナとクリシュナによるカーンダヴァ森の炎上
・大戦争の最後におけるアシュヴァッターマンによるパーンダヴァ陣営焼き討ち
・乳海攪拌神話に見られる世界炎上
・ドラウパディーの火からの誕生
などが挙げられる。
今回は、『マハーバーラタ』第一巻冒頭で語られる、蛇供儀の話を見ていきたい。
アルジュナのひ孫にあたるジャナメージャヤ王は、父が蛇にかまれて命を落としたことから、蛇の一族を恨み、蛇族を絶滅させるための蛇供犠を行った。祭火が焚かれ、その火の中に多くの蛇たちが送り込まれ、蛇の大殺戮が行われた。
そこに忽然と一人の少年が現れた。アースティーカだ。彼は蛇族のジャラトカールを母とし、父は同じ名前の聖仙ジャラトカールであった。アースティーカは高い徳を備えたバラモンで、ジャナメージャヤ王に願って蛇供犠をやめさせた。
ジャラトカールという同じ名前の夫婦は、日本神話のイザナキとイザナミのように、兄妹など近親相姦を暗示させることがある、きわめて近い関係にある。そのことによって絶大な力を持つ息子が生まれたのだと解釈できる。
この蛇供犠は、増えすぎた蛇族を減らすためにブラフマー神によって計画されたものだった。増えすぎた生類のテーマは、『マハーバーラタ』最大の通奏低音である「大地の重荷」に通じる。
また同時に、女神カドルーが、自分の命令を聞かない蛇の子供たちを呪って、このような運命にあわせたのだとも記されている。
『マハーバーラタ』の物語の中で、「火」のテーマは重要だ。アルジュナとクリシュナはカーンダヴァの森を焼いて森の生き物たちを殺した。これは単なる生き物の大殺戮に見える反面、『マハーバーラタ』の「火」という第二の通奏低音の繰り返しという意味では、欠かせない要素であった。
さらに、アシュヴァッターマンは戦争の最後にパーンダヴァの陣営に火をつけて皆殺しにした。
繰り返しあらわれる「滅亡の火」のテーマ。これは、世界の終わりに現われて世界すべてを焼く火にも通じるのだろう。滅亡の火、サンヴァルタカと呼ばれている火だ。
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