猛スピードでエンジンがモーターにとって替わろうとしている現代において、クリーンディーゼルエンジンは驚くほどファン人気が高い。それは圧倒的なトルク感や走りの楽しさによるものだが、音・振動といったネガに取られがちな部分も、エンジンの鼓動を感じられて好印象に捉えられる向きもある。
今回は、愛車としてディーゼルエンジン車に乗る筆者が、ハイブリッドやEVでは味わえないその魅力を語るとともに、ディーゼルの置かれた現状と未来についても考察する。
文/柳川洋 写真/柳川洋、フォッケウルフ、日産、マツダ、BMWジャパン
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■ネガを払拭した最新のディーゼル
「ううう、気持ちいいー」。東名高速・東京料金所を抜けてアクセルを踏み込むたびに、そう思う。
ETCゲートで隣に並んだクルマを横目に、わずかに右足の先を動かす。それだけで、2tほどの車体が、まるで巨人の手で後ろから押されているかのように猛然と加速する。このディーゼルエンジンならではの強烈なトルクは、一度体験したらやみつきになる。
筆者の愛車、2014年式メルセデス E350ブルーテックステーションワゴン。排気量3.0LのV6DOHCターボディーゼルエンジンは、わずか1600rpmから最大トルク620Nmを発生させる。しかもそれは、購入当時最上級グレードだったE550の最大トルク600Nmを上回る。
「ディーゼルエンジンは回転数が上がらないからドラマがない」。一般的にはそう思われているかもしれない。たしかに(タコメーターの)ゼブラゾーンはわずか4200回転から始まっている。
だが、リニアにパワーが出て伸びていくエンジンフィールは、モーターの感覚に近く、7速ATがしっかり仕事をして、低い回転域から最大トルクを発生させつつシフトアップしていくので、押し出されるような官能的な加速が長く続く。よほどのことがないかぎり、アクセルを深く踏み込んでキックダウンさせる必要はない。
100km/h巡行では、7速で1500回転。回転が低いからエンジンノイズも限定的で静か、そのうえアクセル操作も多く求められないため、長距離でも疲れずに走れる。
燃費だって、3.0Lターボのわりに悪くない。高速だと15km/L以上走るので、満タンにすると1000km以上走行可能と表示される。4気筒2.0Lなら、20km/L超えは日常だ。軽油単価の安さのおかげで、ロングドライブでの燃料代に関しては、プリウスといい勝負である。
ディーゼルならではのネガ要素である「カラカラ」音も、乗っていればほぼ気にならないし、人を乗せてディーゼルだと気付かれたことはこれまでにない。一度はディーゼルエンジンのクルマに乗ってみたい、と思ってこのクルマを買った自分を褒めてやりたいぐらいだ。
■迫るディーゼル包囲網の一方で日本は?
だが、東京では早ければ2030年に、日本全体でも2035年までには純内燃機関車の発売が禁止されると報じられている。このままディーゼル車に乗り続けてもいいものか考えざるを得ない。早く売らないと、ディーゼル車には値段がつかなくなってしまうのではないか、これを機にEVに乗り換えるべきなのか。まして、今ディーゼルの新車を買うなど、愚の骨頂なのか?
海外でも、イギリスでは2030年にディーゼル車の新車は発売禁止に、欧州では2035年に内燃機関車がハイブリッド車も含めて発売禁止になる方向だ。
また2025年にも施行となる新排ガス規制・ユーロ7では、厳格な規制への対応コストが非常に高くなるため、実質的にディーゼル車を含めた内燃機関車の販売が不可能になるのではと言われている。
それでなくても排ガス規制テスト不正事件以降、「クリーン」とされたディーゼルエンジンのイメージはガタ落ち。また欧州の多くの大都市では今も大気汚染がひどく(ロンドンでは政府発表で毎年9000人以上が大気汚染で命を落としている)、PM2.5とNOx排出量が多いディーゼル車に対する消費者の目は厳しい。
2015年に50%を超えていた欧州におけるディーゼル車の新車登録シェアは、2020年に28.8%まで激減。同年9月には、欧州でのハイブリッド車とEV車の新車登録台数合計が史上初めてディーゼル車を上回った。
日本におけるディーゼル車のシェアは、新車販売全体の約6%で過去数年安定している。その内訳を見ると、ざっくり5割が輸入車、3割がマツダ車で、三菱とトヨタが残り1割ずつといった状況。輸入車の4台に1台はディーゼルで、特にディーゼルに熱心なBMWでは、X3やX5のディーゼル比率は9割以上、3シリーズや5シリーズは6割、全体でも6割ほどだという。
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