"サイエンス365days" は、あの科学者が生まれた、あの現象が発見された、など科学に関する歴史的な出来事を紹介するコーナーです。
2010年の12月14日、「絶滅していたと思われていたクニマスが再発見された」という衝撃的なニュースが日本を駆け巡りました。
クニマスはもともと秋田県の田沢湖だけに見られた固有種で、17世紀から文献に登場しています。ヒメマスという、ベニザケが陸封によって湖水に取り残されたとされる種の近縁種といわれています。
1920年に公式に新種として登録され、クニマスの標本を寄贈した当時京都大学教授の川村多實二教授の名前をとって「Oncorhyncus nerka kawamurae」という学名を与えられました。そのまま「川村のサケ」という意味です。
しかし、1940年、戦中の国策として田沢湖を利用しての水力発電が行われるようになると、それに伴った河川の水量調節のために近くにあった玉川の水が田沢湖へと引き入れられるようになりました。
不運なことにこの玉川の水は酸性度の高い硬水であり、それによって田沢湖に生息していた生物がほとんど死に絶えてしまいました。当然、田沢湖が唯一の生息地だと思われていたクニマスも絶滅してしまったと考えられました。
そんなクニマスが公に再発見されたのが2010年の年末でした。巷では「さかなクン」の名前で知られる東京海洋大客員准教授の宮澤正之さんが京都大学の中坊徹次教授にヒメマスのスケッチを依頼され、その参考として取り寄せたヒメマスの中に体色が黒い個体が紛れ込んでいたのです。
この黒っぽい魚は山梨県の西湖(さいこ)で採取されたものでした。体色だけ見るとなんとなく普通のヒメマスの個体とは違うように思えますが、一目見ただけでは詳しいことはわかりません。中坊教授が遺伝子解析にかけるなど詳しく調べたところ、ヒメマスとは明らかに異なっており、この種がクニマスであることがわかったのです。
ちなみに、2010年12月14日のテレビなどによる「クニマス再発見」のニュースでは「一目見てクニマスだとわかった」といった報道がなされていたようですが、これは間違いだと中坊教授本人がその著書『絶滅魚クニマスの発見』の中で語っています。
田沢湖の固有種であるクニマスが県どころか地方をまたいだ山梨県にいた理由は、過去、クニマスの受精卵が山梨県の西湖と本栖湖に放流されたことがあり、その受精卵が孵って繁殖したためだと考えられています。
この再発見がきっかけで、2019年、国際自然保護連合(IUCN)はクニマスを「絶滅」から「自然絶滅」へとランクダウンしています。「自然絶滅」とは、平たくいうと飼育下や元の生息地域以外で繁殖した個体しか残っていない種のことです。
現在、秋田県はクニマスをもといた田沢湖へと「里帰り」させるというプロジェクトを立ち上げており、2017年と2019年の2度、山梨県からクニマスの無期限貸与を受けています。秋田県のクニマスは自然放流へ向けて、未来館や県水産振興センター内水面試験池といった場所で飼育されています。
いつの日か田沢湖を泳ぐクニマスを、この目で見てみたいものです。
からの記事と詳細 ( 12月14日 クニマスの再発見が報道される(2010年)(ブルーバックス編集部) - 現代ビジネス )
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