絶滅したはずの恐竜を遺伝子編集で復活させるという設定のSF映画『ジュラシックパーク』。それを彷彿とさせるプロジェクトが8月16日に発表された。
1936年に絶滅したとされる肉食動物「フクロオオカミ」を遺伝子編集で復活させるのだ。最終目標は、かつて生息していたタスマニア島やオーストラリア大陸で野生に戻し、失われた生態系を復活させることだという。
絶滅したフクロオオカミを、人類の手で復活させるという計画にロマンを感じる人も多いだろう。しかし、「遺伝子を完全に再現することは難しい」ため、ハイブリッド動物が生まれることなどを懸念する声も専門家から出ている。
■実はオオカミではなかった。絶滅したフクロオオカミとは?
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フクロオオカミは、実際にはオオカミではない。カンガルーなどと同じ有袋類の一種だ。20世紀までオーストラリアのタスマニア島に生息していた。背中にトラのような縞模様があることから「タスマニアタイガー」と呼ばれることもある。
『絶滅野生動物辞典』(角川ソフィア文庫)によると体長100〜130cm。夜行性で、鋭い歯を使ってワラビーなどの小型カンガルーを捕食していた。有袋類の世界での生態ピラミッドでは頂点に位置しており、他の地域での「オオカミ」に近かったという。
かつてはオーストラリア大陸とニューギニアに広く生息していたが、約3万年前から人類が移住した際に連れてきたイヌが野生化した「ディンゴ」との生存競争に負けて、姿を消した。
ディンゴがいないタスマニア島には生き残っていたが、19世紀以降にヨーロッパからの移民が押し寄せると、家畜を食べるフクロオオカミは目の敵にされて駆除された。政府が懸賞金をかけた時期もあったという。
最後に捕獲されたのは1933年。この1匹は「ベンジャミン」と名付けられて、タスマニア島のビューマリス動物園で飼育されたが、1936年9月7日に死亡。これがフクロオオカミの生存が確認された最後となった。その後は野生下での未確認の目撃情報はあったが、1986年になって絶滅宣言が出た。
最後の1匹であるベンジャミンの姿は、85年目の命日にあたる2021年9月7日に、カラー化映像が公開されている。
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■復活させたフクロオオカミを「野生に戻すこと」が最終目標
今回のフクロオオカミの復活は、米国のベンチャー企業「コロッサル・バイオサイエンス」とオーストラリアのメルボルン大学の共同プロジェクトだ。コロッサル社は2021年9月、ケナガマンモスを復活させることを目的に設立。フクロオオカミは同社が手がける2番目の絶滅動物復活の試みとなる。
コロッサル社の公式サイトなどによると、今回のプロジェクトに参画するメルボルン大学のアンドリュー・パスク博士は2018年以降、オーストラリアのビクトリア博物館に保存されている標本から抽出されたDNAからフクロオオカミのゲノム配列を明らかにしている。これを元に近縁のフクロネコ科の動物「フトオスミントプシス」の遺伝子を編集することで、人工的にフクロオオカミを復活させるのだという。
パスク博士は「この技術による私たちの最終的な目標は、これらの種が生態系で絶対に不可欠な役割を果たした野生に戻すことです。したがって、私たちの最終的な希望は、いつの日かタスマニアの草原でそれらを再び見ることです」とCNNに話している。
■健康上の問題を抱えたハイブリッド動物が生まれる可能性。さらには生息域を確保できない懸念も
科学の力で、絶滅動物を復活させるという夢のあるプロジェクトだが、フクロオオカミの復活プロジェクトには、専門家からは懸念の声も出ている。
一つは古い標本からフクロオオカミのゲノム配列を完全に解析することは非常に難しいため、生まれるのはフクロオオカミとフクロネコの遺伝子が混ざったハイブリッド動物になるというのだ。こうしたハイブリッド動物の場合、健康上の問題を抱え、人間の多くの助けがなければ生き残れない可能性があるという。
コペンハーゲン大学のトム・ギルバート教授(進化生物学)はCNNの取材に対し、メールで以下のように回答した。
「絶滅種の完全なゲノム配列を取得する可能性は低いため、失われたゲノムを完璧に再現することはできません。変更できない部分が常に存在します。彼らは、どのような変更を行うかを厳選する必要があります。したがって、結果は(現存する種との)ハイブリッドになります」
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懸念の声は、地元オーストラリアの研究者からも出ている。フリンダーズ大学のコリー・ ブラッドショー教授(地球生態学)は「私たちはフクロオオカミを野生に戻すべきか?」という西オーストラリア大学の研究者からの質問に対して「いいえ」と明確に否定した。遺伝的に多様な個体を再現することが難しい上、生息域を確保できないとしている。
「生存可能な個体群が野生で存続するためには、何千もの遺伝的に多様な個体が必要です。野生下で生き残り、持続できるような遺伝的に多様な個体の十分なサンプルを再現する見込みはありません」
「大型の捕食動物であるフクロオオカミは、餌を集め、縄張りを確立し、子供を育てるために広い生息域を必要とします。たとえ遺伝的多様性の問題が解決されたとしても、大規模な個体群を確立することを社会が認めるとは思えません。現在のオーストラリアのほとんどの地域でディンゴが迫害されていることを考えてみれば良いです」
【イラストの出典】
Biodiversity Heritage Library(生物多様性遺産図書館)がオンライン掲載している19世紀の博物図鑑「オーストラリアの哺乳類」(ジョン・グールド)より
からの記事と詳細 ( 86年前に絶滅したフクロオオカミを遺伝子編集で復活へ。「ハイブリッド動物になる」と専門家は懸念 - ハフポスト日本版 )
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