今月初旬、県や佐世保市が絶滅危惧ⅠA類に指定しているトンボ「ミヤマアカネ」の繁殖が始まった。同市内で自然保護活動に取り組む「ふるさと自然の会」は、同市世知原町開作にミヤマアカネ保全用の棚田を設け、生息域の拡大に取り組んでいる。会長を務める川内野善治さん(74)の調査に同行し、繁殖の様子を観察した。
◆守る
調査に同行したのは今月11日。集合場所の棚田近くに着いたのは午前10時ごろだが、日差しが強い。目印だと言われていた川内野さんの250ccのバイクを横目に歩いていると「こっちこっち」と田んぼ脇に立つ川内野さんに声をかけられた。「たくさん居るから、早く写真撮らんね」-。
ミヤマアカネは赤トンボの仲間で、羽先に茶色の帯と白い縁紋があるのが特徴。同棚田では例年、田んぼに水を入れる5月中旬ごろに卵からかえり、幼虫の間、水の流れが緩やかな田んぼで成育、夏に羽化する。お盆ごろから始まる繁殖行為は、今月末ごろまで続く。
転作や農薬の影響で減少しており、同会は絶滅の危機から守るため、農家から計30アールの棚田を借り、2009年からミヤマアカネに適した環境での稲作をしてきた。数を増やし、分布の拡大を目指す。現在県内の主な生息地は同棚田で、多い年は1600匹以上を確認。今年は約700匹を確認している。
◆捕獲
気温が24度以上になると交尾を始め、朝から昼ごろまでが確認できる時間帯だという。ぬかるむ田んぼに足を踏み入れると、植物の葉先に止まるミヤマアカネの姿が。右上の羽に白い印。これは川内野さんが発生数と分布範囲を調べるため、マーカーペンで付けているものだ。
「おーい、こっちで交尾しよるよ」。一つ下の田んぼで調査をしていた川内野さんから呼ばれ、急いで向かう。教えてもらった場所に静かに近寄り、夢中でシャッターを切った。
写真を撮り終わると、川内野さんは捕虫網で交尾中の1組を手際良く捕獲。雄を逃がして雌の羽を器用につかみ、尾の部分を水が入ったプラスチック容器に漬けた。すると田んぼの水たまりと勘違いしたのか、雌はものすごい勢いで1ミリにも満たない卵をたくさん産んだ。こうして採取した卵を別の田んぼに移して生息場所を増やす狙いだ。卵を出し切った雌に川内野さんが「ありがとう」と声をかけ自分の手にそっと乗せると、雌はふわりと飛んでいった。この日は約2時間で19組確認し、17個体から採卵した。川内野さんはこの時期、この作業を数回繰り返す。
同会メンバーらは、これまで同棚田で稲作をしていたが、「高齢化で大変」だからと今年は休耕して水を入れ、自然の状態でミヤマアカネを繁殖させる方法に切り替えた。すると稲作をしなかったために農薬や耕うんの影響を受けず、予想外にも昨年の倍の姿が確認できている。
◆定着
採卵後、バイクで数分の場所に移動し、2カ所の田んぼに卵を移した。水流がある点がポイントで、1カ所は今年が初めての場所なので今後に期待だという。
「卵を移した後、ふ化するか分かるのは1年後。ふ化しても定着するかが分かるのは2年後。一年一年が勝負で、試行錯誤しながらここまできた」と川内野さん。「前は松浦市にも居たけど、ダムができて見なくなった。世知原にも昔は自宅の庭で見られるくらい、たくさんいたんだけどね」とつぶやく。「ミヤマアカネが新しい場所に定着するにはあと数年かかるだろうから、それまでは活動を頑張るよ」。調査を終え、川内野さんはそう言った。
からの記事と詳細 ( 絶滅危惧種「ミヤマアカネ」 生息域拡大へ繁殖調査、採卵 「ふるさと自然の会」保全用の棚田設置 | 長崎新聞 - 共同通信 )
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