- 研究の概要
しかし、このような環境変化(都市ストレス)が生物に与える影響や、都市ストレスに対して都市の生物がどのような進化を遂げているかは、十分にわかっていません。
千葉大学大学院理学研究院の高橋佑磨准教授と大学院融合理工学府の佐藤あやめ大学院生(当時)はオウトウショウジョウバエを対象に、都市化に伴った環境変化が昆虫に与える影響を評価しました。まず、関東地方の都市部と郊外でオウトウショウジョウバエを採集し、これらを実験室で繁殖させ、それぞれのグループ(郊外群と都市群)に分けて、実験を行ないました。実験室内で「夜間照明のある環境」で飼育すると、「夜間照明のない環境」で育った個体に比べて、成虫の活動量が低下し、かつ、一日の活動パターンが大きく変化することがわかりました(図2)。このことは、夜間人工光が昆虫の生活に大きな影響を与えることを示唆しています。
一方で、郊外群の個体と都市群の個体の比較から、都市に暮らす生物が都市のストレスに対抗して「急速に進化」していることも示唆されました(図3)。
たとえば、都市群の個体では、夜間照明による活動量の減少幅が小さくなっていたり、夜間にも活発に活動するような進化が起きていることがわかりました(詳細後述)。また、都市群の個体では、郊外群の個体に比べて、高温への耐性が高く、低温への耐性が低いことも明らかになりました。本研究のように、都市化によって生じたさまざまな環境ストレスが生物に与える影響やそれに対抗して生じる生物の進化を理解することは、都市における各生物種の栄枯盛衰を理解するだけではなく、都市化に伴った生物の減少を最小化するための方策を考える上で重要な知見となると期待されます。本研究は国際学術誌のEcology and Evolution誌に2022年12月13日9:00(日本時間)に公開されます。
- 研究の詳細
一方で、夜間に弱い人工光(10ルクス)のもとで飼育する実験を行なうと、郊外群の個体と都市群の個体のどちらにおいても、日没前後(点灯後12時間後)での活動ピークが消滅しました。また、都市群の個体に限っては、夜間照明のもとでは、夜明け前に活動量が高まることもわかりました。都市群の個体は、夜間照明がある環境では「夜行性」のような生活をしているのかもしれません。なお、都市群の個体では、一日を通じた夜間照明による活動量の減少も少ない傾向がみられました。都市群の個体は、夜間照明によるストレスの影響を最小化するように進化しているのかもしれません。いずれにしても、これほどの活動パターンの変化は、種内の雌雄の出会いや、種間の相互作用に大きな影響を与える可能性があります。つぎに、各個体を低温から高温までのさまざまな温度に暴露して、限界の活動温度を測定する実験を行なったところ、都市群の個体は、郊外群の個体に比べて低温耐性が劣ることがわかりました。一方で、通常の飼育条件下で都市群の個体と郊外群の個体の高温耐性を比べると、明確な差は認められませんでした。ただし、短時間だけ高温に曝すと、都市群の個体だけ高い高温耐性を獲得することがわかりました。都市群の個体は、高温耐性に高い柔軟性(可塑性)を有しており、結果として、高温に耐えられることが示唆されました。これらの結果は、都市における環境変化は、生物の活動に影響を及ぼしている一方で、都市に住む生き物では、そのようなストレスの影響を軽減するような進化を遂げていることを示しています。
- 研究プロジェクト
· 環境研究総合推進費「都市化による昆虫への遺伝的・エピ遺伝的影響と汚染的遺伝子流動の評価」(4RF-2103)
· 住友財団「光害に対する昆虫類の遺伝的変化と継承性・非継承性のエピジェネティック変化」
· 大林財団「都市化がもたらす生物の形質へのインパクトの評価」
· 国際科学技術財団「都市化に対するショウジョウバエ類の迅速な適応進化の検証」
· アサヒグループ学術振興財団「都市化による温度と光環境の変化がショウジョウバエに与える影響と対抗的適応進化」
- 論文情報
著者:Ayame Sato and Yuma Takahashi
雑誌名:Ecology and Evolution, Volume 12, Issue 12, Pages: 1-10
doi: https://doi.org/10.1002/ece3.9616
からの記事と詳細 ( 夜間の人工光は昆虫の活動を一変させる - PR TIMES )
https://ift.tt/LGlYHN4
No comments:
Post a Comment