色鮮やかな緑色のバナナが、蒸し暑いハウスの中でたわわに実っていた。相模原市南区の井上農園で収穫が間近に迫っていたのは、1900年代前半に世界で主流だった「グロスミッシェル」。病気の流行で激減し、国内でもめったに見ることができなくなった品種だ。
「甘くて、やわらかくて、皮も薄い。皮まで食べられる。今では希少なバナナです」。スーパーなどで売られている一般的な「キャベンディッシュ」とは異なる果実が順調に育つ様子に、笑顔を見せた。
バナナは、ネットで調べた情報を基に、自社の温室で1本育てていた。収穫した後は親戚の子どもや社員で食べていた。
そんな中、コロナ禍で企業のテレワークが増え、会社の柱の一つの観葉植物事業にも影響が及んだ。家庭では、2022年に長男湊翔(みなと)ちゃん(9カ月)が妻のおなかにいることが分かった。
バナナ好きが多い子どもには消毒をせず、無農薬のものを食べさせたいが、市販ではなかなかない。「なんとか安全な食べ物を」と、本格的に栽培することを決め、観葉植物を置いていた温室3棟をバナナ栽培用に切り替えた。さらに、評判の高いバナナを栽培している人がいる岡山県に何度も出向き、修業した。
バナナ栽培には「自分が育ってきた相模原をもっと盛り上げたい」という思いも込め、有機肥料などはできるだけ市内のものを使っている。
年明け早々に起きた能登半島地震を見て、以前から抱いていた思いもより強くなった。バナナを災害時の食料にすることだ。じっくりと熟成するバナナは、社員だけでなく会社周辺の住民にも提供できる。災害がなくても子どもたちの施設に配り、食べてもらえる。「今、燃料費の高騰でハウス栽培は大変だが、止めたくはない」と、決意は揺るがない。
初めての大がかりな収穫は今月下旬から2月の間になる。市内にある子どもたちの施設に配る予定で、ゆくゆくは販売ルートにも乗せたいという。
「子どもたちが口にするものだから、おいしいバナナを作り続けたい」
まだ青いバナナのそばで、ご機嫌な湊翔ちゃんに約束するように語った。(古川雅和)
<バナナの人気> バナナの生産者兼輸入業者や商社などでつくる日本バナナ輸入組合が、2023年7月にまとめたバナナ・果物消費動向調査(16歳以上の1442人が回答)によると、バナナは19年連続で「よく食べる果物」の1位になっている。
ただ、国産バナナの生産量は少ない。国連食糧農業機関(FAO)の21年の統計で約18トン。1位のインド(約3306万トン)、2位の中国(約1172万トン)に遠く及ばない。
一方、22年の輸入量は約105万トン(財務省貿易統計)。輸入先の約78%がフィリピンになっている。
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