介護を要する高齢者の排便ケアのあり方を研究している高岡先生は看護師出身。
病院の介護の現場で勤務して得た経験をもとに、意思表示が難しい人にもすっきり排便してもらえるような、尊厳ある排泄ケアの構築を目指しています。
看護学×便
理想的なバナナウンチを目指した排便ケア
高岡茉奈美
TAKAOKA Manami
医学系研究科 特任助教
下剤投与か摘便か浣腸か
私はもともと看護師として、慢性期の患者さんが入院する医療療養型病床を有する病院で勤務していました。患者さんの多くは便意を感じることや意思表示をすることも難しい高齢者です。そのため、看護師が排便の有無を確認し、便秘の方には下剤投与や摘便(肛門に指を入れて便を掻き出すこと)、それでもダメな場合は浣腸するなどの「排便ケア」を行っていました。
排便ケアにおける看護師の最大の役目は、腸閉塞という、糞便で腸が詰まってしまう「最悪の事態」を起こさないということ。必死でした。ただ、下剤の調整がうまくできずに下痢になってしまい、便がおむつから漏れ出て寝衣やシーツが汚れてしまうこともしばしばありました。患者さんが辛いのはもちろん、看護師の仕事も増えるし、コストもかかります。この負のスパイラルをどうにかしたいと思い、研究者の道に進みました。
便秘薬にも刺激性下剤、塩類下剤など様々な種類がありますが、どの患者さんにどの下剤を使えばいいのかという指針はありません。現場の看護師はそれぞれの経験に基づいて薬の量を調整したり、飲むタイミングを計ったりと模索し、悩みながら排便ケアを行っています。どのようなケアをすれば理想的な便が出るようになるのか。そこを明確化したいと思っています。便の硬さや形状、色などから排便の状態を判断する「便性状スケール」という指標があります。その中で理想的な便とされるバナナウンチが出るようなケアの確立を目指しています。
適切な下剤の使い方
私は、特別養護老人ホーム(特養)での便秘ケアの状況について調べました。特養に入居している約2000人のデータを分析。2つの異なる時点で使用されている便秘薬について確認したところ、両方の時点で同じ下剤を服用していた入居者のうち、74.5%に慢性の便秘が発生していました。逆に14.3%の人は下痢が続いていました。便秘が解消されていなかったり、慢性の下痢が生じていても、同じ便秘薬が使用され続けていました。また、刺激性下剤を服用していた入居者の約4分の1がその薬を常用していました。刺激性下剤は腸を強制的に動かし排便を促す薬で、短期間の使用や症状があるときにだけ使う頓用が推奨されています。今後、便秘薬の使用方法についても何かしらアプローチしていきたいと考えています。
どのようなタイミングで、どの薬剤を使うと、どのような便の性状になるのか。ここを分析していきたいです。また、食物繊維や乳酸菌を含む食品の摂取や、運動、定期的なトイレ習慣といった非薬物療法についての研究にも取り組みたいと思っています。
今後研究を進めるうえで不可欠なのが病院や高齢者施設などの現場で働く方々の協力です。電子カルテのデータや、どのように下剤の調整をしているのかといった、カルテだけでは分からない日々の実践などについて丁寧に拾っていきたいです。高齢者施設や病院で働く方々でご関心がある方がいましたら、是非研究にご協力いただけると嬉しいです。
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