保管庫から取り出された体長2センチほどの小さな昆虫は、房状の長い触角を忙しげに動かしていた。暗い瑠璃色の体色はタマムシにも似た美しさを感じさせる。
その姿から「フサヒゲルリカミキリ」との名を持つこの虫は、環境省レッドリストで「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの」とされる絶滅危惧IA類に指定されるカミキリムシの一種だ。足立区生物園では、環境省や伊丹市昆虫館(兵庫県伊丹市)と連携し、飼育下での繁殖に取り組み、成果を上げている。
岡山のみで確認
環境省によると、フサヒゲルリカミキリは北海道や本州で生息していた記録が残っているが、近年は岡山県内でのみ確認されている。樹木を主食とする一般的なカミキリと異なり、ユリ科の多年草、ユウスゲを食べる。幼虫が茎の中で越冬することも特徴だ。個体数が減少した要因は、ユウスゲが生育する湿地が減少したことが大きいという。
足立区生物園で繁殖を担当しているのは、陸生昆虫班の腰塚祐介さん(31)だ。幼少期から昆虫に興味があったという。最も好きな虫はカマキリ。
「鎌の役割をする前脚の先端部『脛節』で一番長いトゲが、自らに刺さらないようにくぼみがある。その形が何よりも好きなんですよ」
東京農業大の短期大学部で昆虫を専攻し、その後は環境調査の道に進もうと専門学校に入ったが、再び昆虫の世界に戻ってきた。「やっぱり好きだったということでしょう」と語る。
平成25年、生物園に採用されてからは昆虫繁殖一筋で、現在は班長として多くの仕事を任されている。ただ、平成30年に始まったフサヒゲルリカミキリの飼育下での繁殖は、一筋縄ではいかなかった。
リベンジ果たせず
1年目は幼虫から飼育を始めた。幼虫は秋にユウスゲの茎内に入って越冬し、翌春にさなぎとなって羽化する。ただ、主な生息地である高原の気候と環境が違ったためか、1年目は茎内での休眠中に全滅した。
令和2年は交尾済みの雌を受け入れ、採卵と孵化(ふか)を成功させた。今度こそ、と越冬と蛹化(ようか)を目指した。温度管理はもちろん、茎と幼虫を保管する試験管に栓をするなど湿度にも気を配ったが、「結果的に多湿の環境になっていた」(腰塚さん)といい、リベンジは果たせなかった。
3度目の3年の夏、過去2回の教訓を踏まえ、温度、湿度管理の徹底や、休眠中の観察回数を減らすなど、工夫を重ねた。伊丹市昆虫館の担当者から伝えられた生息地での温度や湿度の情報なども参考にした。加えて複数の植物園からユウスゲの提供を受け、十分な量の餌を確保できたことも大きかった。
一冬を越えた今年5月末、とうとう茎の中でさなぎが確認できた。6月8日朝、羽化した成虫が茎からはい出てきた。苦労が実った-。腰塚さんら関係者は胸をなでおろした。
現在は来春の羽化に向け、越冬への準備を進める。「繁殖に向け、世代をつなげることは極めて大事になってくる。何としても成功させたいですね」と言葉に力を込める。
(中村雅和)
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