僕が10年以上通っている場所
僕が頻繁に通うカフェの一つに東区の「珈琲小林」がある。香椎川の桜並木にある小さなコーヒースタンド。店主は僕のふた回り年下で寅年生まれの小林謙吾くん。熊本県生まれで香椎育ちの彼。香椎のことが大好きで、一生香椎で仕事しながら生きていきたいと強く思っている香椎ラブの男だ。
最初に謙吾くんに会ったのは12年前だった。この場所がまだ「MIMATSU Specialty Coffee Roaster」という店だった頃、友達と一緒にラテアート勉強会に参加していたのが彼だった。福岡大学を卒業後、宅配寿司店で働いていた彼だったが、なぜコーヒーの世界に足を踏み入れたのか。彼はこう答える。
「当時の店長だった河邉憲司さんが自分で焙煎して淹れてくれる一杯のコーヒーが美味しくてコーヒーに興味をもったんです。そしてここに集まるお客さんも楽しくて、店主が教えてくれる音楽や映画や文化的な話も面白くて、地元香椎に素敵な店があって嬉しかったんですよね」。
それから通ううちに河邉さんへ「ここで働かせてください」と頼み込んだそうだ。今から10年前のことだった。数年後、河邉さんが他の店に移ったため、謙吾君が店長として切り盛りするようになった。
MIMATSU Specialty Coffee Roaster
2017年、「MIMATSU Specialty Coffee Roaster」は店を閉めることになったが、なんとか知り合いが新しいオーナーとなり同じ場所で「BANX RIVER」として再スタートしたので、謙吾君は引き続き店長を務めることになった。店名は変わったものの同じ店で同じ人が立っているので、外から見たら変わったことに気づかない客も多かったかもしれない。しかし、売上もいまいちパッとせず、オーナーから2019年12月末をもって閉店することを告げられることになった。
「珈琲小林」の開業
さて、謙吾君どうする。常連客からはそんな目で彼を見つめる人でいっぱいだった。皆の注目を集める中、謙吾君は決断した。
「独立してここで自分の店を開きたいと思います」
そう彼が明言した時は「やったー」と喜ぶ人も多かった。
こうして2020年5月に「珈琲小林」はスタートした。謙吾君は、同じ場所にある3つ目の店舗で3回目の店長を務めるという珍しい記録を作った。
しかし開店準備を彼らしいマイペースでのんびりやっているうちに世の中はCOVID-19過の中へ。ふんわかと優しい性格の彼だから平穏な人生を送っているように見えるが、こうやって文章にするとなかなかに山あり谷ありの人生を送っている。
そんな大変の中でのスタートとなった「珈琲小林」だったが、後戻りは出来ない。メニューは彼が大好きな「COFFEE COUNTY」の豆を使ったコーヒーが中心。そして、もうひとつ「バナナシェイク(650円)」を目玉にすることにした。「バナナシェイク」は「MIMATSU Specialty Coffee Roaster」時代から時々オンメニューされてきたが、オペレーションや仕込みに手間がかかるために今まではなかなか前面に推されることはなかったのだ。
開業当初の「珈琲小林」
バナナシェイクは、通常の「バナナシェイク」とエスプレッソを混ぜた「エスプレッソバナナシェイク(750円)」にすることにした。レシピは前述の河邉さんにも再度相談して完成させた。
そのレシピはこうだ。まずはバナナを追熟させることが大事。仕入れた時の熟れ具合や季節にもよるが、3~5日間店内で追熟させる。これが不完全だとバナナ本来の甘みや香りが出ないのだ。次に熟したバナナの皮をむいてカットしたものをラップして1~2日間冷凍する。そこでやっと使えるバナナになるのだ。店内にはたくさんバナナがあるのに「バナナシェイク売り切れました」という貼り紙があるのは、商品として出せる分がなくなったということで、決して売り惜しみしているわけではない。
写真:姫野翔生
「バナナシェイク」1杯にはこのバナナが約2本使われている。他にはアイスクリームと牛乳と隠し味の塩。氷は入っていないので濃厚なバナナシェイクになる。これに「COFFEE COUNTY」焙煎の深煎り豆を使用して抽出したエスプレッソを加えたものが「エスプレッソバナナシェイク」となる。
世間のバナナシェイクブームに乗った感もあるが、週末になると中央区や博多区からも若い客が押し寄せるようになった。COVID-19の影響で飲食店の店内利用が制限されるなか、テイクアウトに向いていたのも良かったのか、これが大ヒットとなった。コーヒーが売れにくいと言われる夏場にはその日の売上の9割が「バナナシェイク」ということもあったそうだ。
常連客からは「もうこうなると『珈琲小林』ではなく、『パーラー小林』やん」とからかわれることもあった。しかし「バナナシェイク」を始めていなかったら経営的にどうなっていただろうと胸をなでおろす謙吾君であった。
季節限定の「志賀島あまおうシェイク」
こうなると他にもシェイクをメニュー化しようと試作を重ねた。その中で日の目を見たのが毎年1~3月に季節限定で発売される「志賀島あまおうシェイク(880円)」だ。
写真:姫野翔生
同じ東区の志賀島にある「ちびたファーム」の森田さんが栽培する「あまおう」のみを使用したイチゴシェイク。形が悪かったり傷があることで小売店などに出荷できない規格外の「あまおう」をイチゴシェイクにして有効活用しようと、森田さんと一緒に開発に取り組んだのだ。SDGsでもあり地産地消でもある。
「志賀島あまおうシェイク」には、フレッシュの「あまおう」、冷凍バナナ、アイスクリーム、練乳、牛乳、氷が入っている。「あまおう」は森田さんが週に数回仕事終わりに自分で納品してくれる。バナナよりもさらに数量限定になるのでこれまた人気である。
「バナナシェイク」や「志賀島あまおうシェイク」が香椎に人を呼び込む起爆剤になればと思い、3台のミキサーをフル回転させて頑張っている謙吾君だ。
ポップアップストアへの取り組み
ドリンクの提供以外に謙吾君が取り組んでいることがポップアップストアだ。昔彼がまだ客として「MIMATSU Specialty Coffee Roaster」に来ていた頃に当時の河邉店長が謙吾君の作った洋服をポップアップとして売ってくれたそうだ。それがとても嬉しかったので、今度は自分が作家さんやクリエイターさんたちを応援していく場所を作れたら良いなと思い始めたらしい。
現在月1回くらい、サンドイッチ、ハンドメイドのレザー製品、家具、衣類、フリーマーケット、ドーナツなどの販売、さらに最近では絵画の個展も開催している。
「コーヒー店は様々な業種の方々のアイデアを混ぜ合わせることができる空間だと考えています。ポップアップストアはまさにそれを具現化することが出来るイベントだと思います」と謙吾君。
今後の夢
「珈琲小林」のコンセプトのひとつとして、「駄菓子屋の延長線上」というものがあるそうだ。「小林くん元気〜?」「小林のおっちゃんなんしよるとー?」と、誰でも気軽に立ち寄れる地域の灯りのひとつとして末永く香椎に在り続けたいと思っているとのこと。
とにかく香椎が大好きな謙吾君はこう話を締める。「福岡市のあちこちから『珈琲小林』を目指して来てもらえることにより、香椎がもっともっと明るく元気な街になってくれたら嬉しいですね~。そして、香椎に住みたい、香椎で自分も店を始めたい、という人が増えてくれたらさらに良いなと思って頑張ってます」
誰にでも優しく笑顔で接客する謙吾君。特に大きな野心や欲があるわけでもない。僕から見たら相当にのんびり屋さんではあるが、逆にそれがみんなに愛される点かもしれない。36歳の謙吾君が白髪の老年紳士になった頃、香椎で同じようにのんびりと店をやれていれば、それはきっと彼の夢が叶ったということだろう。頑張れ、謙吾。
ジャンル:カフェ
住所:福岡市東区香椎駅前2-2-6
電話番号:080-4281-0818
営業時間:12:00~21:00
定休日:火曜(不定休あり)
席数:テーブル6席
メニュー:ホットコーヒー 500円、アイスコーヒー 530円、カフェラテ 550円、バナナシェイク 650円、エスプレッソバナナシェイク 750円、志賀島あまおうシェイク 880円(季節限定)、ハニーレモンソーダ 500円
URL:https://www.instagram.com/coffeekobayashi/
火曜ドラマ『君の花になる』
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