熊本など九州3県に生息する特別天然記念物カモシカの推定頭数が、ここ30年足らずで10分の1以下の約200頭に激減し、絶滅危機の目安とされる500頭を初めて下回ったことが、3県の合同調査で分かった。増加するニホンジカに縄張りを追われるなど、生息環境が厳しくなっていることが要因。関係者は「対策を講じなければ絶滅は必至」と危機感をあらわにする。
調査は熊本、大分、宮崎の3県が文化庁の支援でおおむね7年ごとに実施。国見岳など3県にまたがる九州山地を中心に、落ちている糞[ふん]の数などから頭数を推定している。
2018〜19年度調査で3県の推定数は約200頭(熊本約40頭)と、前回11〜12年度の約810頭(同50頭)からさらに減少。1994〜95年度の約2200頭(同270頭)に比べ10分の1以下になった。
熊本県内の調査を担当した菊陽町の九州自然環境研究所(中園朝子所長)によると、90年代以降、シカが爆発的に増えたことが主因。単独行動するカモシカの縄張りだった山岳地帯が森林伐採されて一時的に草地化し、シカの餌場が広がった。カモシカはシカの群れに追い出される形で標高の低い里山に下り、生息地が分散しつつあるという。
里山のカモシカはわなや感染症などのリスクにさらされると同時に、生息地の分散で雄と雌が出会いにくく繁殖の機会も失われる。これまでにシカ用のわなにかかって負傷したり、防護ネットに絡まったまま死んで白骨化したりした例が見つかった。野生のタヌキにみられる皮膚病の疥癬[かいせん]に感染して死んだ例も報告されている。
同研究所の技術顧問で、熊本野生生物研究会の坂田拓司会長(61)は「一般に中・大型哺乳類の絶滅ボーダーラインは500頭とされる。一刻も早く手を打たないと絶滅を免れない」と訴える。絶滅回避のためにシカを減らし、カモシカの生息環境を回復させる必要性も強調。対策組織の立ち上げや啓発強化を求める。文化庁や県の担当者は「まずは3県合同の会議で話し合い、できることから取り組む」と話す。(川崎浩平)
◆カモシカ 本州、四国、九州に分布するウシ科の日本固有種で和名はニホンカモシカ。標高1千メートル以上の険しい崖地などに単独で縄張りを作り、一夫一妻で繁殖する。古くは狩猟の対象で肉は食用、毛皮は生活道具として重宝された。1934年の天然記念物指定後も密猟が続くなどしたため、国は55年に特別天然記念物に格上げして保護を強化した。県の2019年度レッドデータブックでは、ごく近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高い「絶滅危惧ⅠA類」に分類されている。
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September 08, 2020 at 11:00AM
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