法務省が新年度から、受刑者に絶滅危惧種の保全活動をさせる新たな処遇を導入することを決めた。持続可能な社会の実現に貢献してもらうことが、受刑者の更生にもつながるという。法務省が目指すコンセプトは、刑務所と持続可能な開発目標(SDGs)が融合した「サステイナブルプリズン(持続可能な刑務所)」。その狙いとは?
導入するのは栃木県さくら市の「喜連川社会復帰促進センター」。民間の資金やノウハウを活用して官民協働で運営する東日本初のPFI方式の刑務所として、2007年に開所した。
さくら市の西端を流れる鬼怒川中流域の河川敷は、水の流れが急で水位の変動が激しい。石がゴロゴロと並び、こうした自然環境を好む在来種のチョウ「シルビアシジミ」や、キク科の二年草「カワラノギク」を見ることができる。
ただ、地球温暖化や外来植物の増加の影響にさらされ、いずれも環境省や栃木県のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている。住民グループ「うじいえ自然に親しむ会」が保全地を設定し、環境保全活動を実施している。法務省はここに目を付けた。
シルビアシジミの幼虫は、河川敷に生える「ミヤコグサ」という植物を食草にしている。新たな処遇では、親しむ会の助言を受けながら、心身に障害がある受刑者がセンター内でミヤコグサとカワラノギクを栽培する。1~2年かけて成長させ、受刑者の手で河川敷に戻し、希少な生態系の維持に貢献する計画だ。
職業訓練でも、環境に優しい「循環型農業」を導入する。センター内で発生した生ゴミを堆肥(たいひ)化して有機農業に取り組むほか、センター内に巣箱を置いてニホンミツバチを呼び込み、養蜂を試みる。収穫物は、近くの学校や子ども食堂で使ってもらい、地域に還元するという。
法務省によると、「サステイナブルプリズン」という着想は、刑務所の処遇のあり方を見直す中で生まれた。環境保全や持続可能な社会の実現は今や、国や自治体、企業や市民にとって共通する大きな課題となっている。社会的な課題の解決と、受刑者の改善更生を結びつけられないか――。
法務省の幹部は「地域住民とともに環境保全活動に取り組むことで、『社会の役に立っている存在』と感謝され、自己肯定感の向上につながる。地域の関心が受刑者に向けば、再犯防止の土壌もできる」と意義を語る。親しむ会の高橋伸拓会長も「育てた植物が鬼怒川で花を咲かせる姿を目の当たりにすれば、受刑者も感動があるはず」と前向きだ。
受刑者の刑務所での生活は、木工品を製作したり、職業訓練を受けたりする刑務作業が中心だった。一方で、再犯防止や社会復帰を見据えた、より効果的な処遇が必要ではないかとの指摘が以前からあった。
政府は今国会に、刑務作業が義務付けられている懲役刑と、収容のみの禁錮刑を一本化し、「拘禁刑」(仮称)を創設する刑法改正案を提出する方針だ。新制度では、受刑者の特性に応じた処遇メニューを用意する。例えば、高齢者や障害のある受刑者にリハビリをさせたり、若い受刑者には勉強や資格取得のために時間を配分したりするような試みも可能になるとみられている。
法務省幹部は「新しい刑の下では、これまで以上に改善更生が重視される。そのためには『何のための処遇か、その処遇がどう役立つか』を受刑者一人一人に理解してもらうことが重要だ。刑務所と地域の連携は、これからの処遇のモデルの一つになる」と語る。【山本将克】
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