那須どうぶつ王国(栃木県那須町)は5月、希少種の新しい仲間を迎えた。四国地方に生息するニホンカモシカ、シベリアや中国などに生息するアムールヤマネコのペアが到着したほか、ネコ科最大のアムールトラの雄1頭も来た。いずれも個体数が激減している種で、園は繁殖に力を入れる。一般公開は7月ごろになりそうだ。
ニホンカモシカは、国の特別天然記念物。なかでも四国産は、本州にいるものに比べて茶色を帯び小柄で角も小さい。国は「絶滅のおそれのある地域個体群」に分類する。国内では同園を含め6園で四国産の繁殖に取り組むことになる。
アムールヤマネコの繁殖に取り組む動物園は、那須どうぶつ王国が加わり国内2カ所となった。今後、絶滅危惧種のツシマヤマネコの繁殖に取り組む際にも、アムールヤマネコの繁殖技術を生かせるという。
アムールトラはシベリアや中国の森林に生息し、推計500頭程度しかいない絶滅危惧種だ。迎えたのは2歳の雄で、名前は「令」。今の体長は約2メートルだが、佐藤哲也園長(65)は「もうひとまわり大きくなり体長2・5メートル超になる」。適正な雌が見つかれば迎え入れ、繁殖をめざす。
園はニホンカモシカ、アムールトラを迎え入れるにあたり、クラウドファンディングで募った支援金をあてて展示場を新設した。
初めてのトラ飼育 事故防止など工夫
同園がトラを飼育するのは今回が初めてだ。展示場は針葉樹やクマザサを植えて生息環境に近づけた。
担当飼育員は、事前に神戸市内の姉妹園に行き、スマトラトラの飼育を実習した。令の担当は、すでに園にいるホッキョクオオカミの担当チーム。猛獣の飼育経験は積んでいる。マニュアルも整備してきた。獣舎がある建物に入る手順も、細かく決められている。
必ず2人以上で入り、最低2人は無線機を携帯する。扉を解錠する前に窓越しに内部の通路の安全を確認する。入ったら獣舎に令がいることを確認し、それから獣舎前の通路に通じる扉を解錠する。
令がいる獣舎内には飼育員は立ち入らない。獣舎の鉄格子と鉄製の網越しに便の状態や餌の残量、顔つきを確認する。マニュアルには「動物は絶対に触らない」と記されている。
担当チームの二川原美帆さん(26)と上大田直樹さん(25)は「展示場で令がどんな動きをするか楽しみ」と語る一方、「大きくて怖い。事故がないように安全第一」とも話す。令が到着した時の咆哮(ほうこう)が「体にずんと響く重低音」で忘れられないという。
「その気持ちが大事」と佐藤園長は話す。令が猛獣であることを、忘れてはならないからだ。1月に那須サファリパークで獣舎外の通路にいたベンガルトラに飼育員3人が襲われた事故や、甘えたように鼻をならす獣舎内のトラに手を伸ばして飼育員が重傷を負った他園の事故についても、担当チームに説明している。
令を移動させる際も工夫している。当初、建物内にある三つの獣舎すべてに慣れてもらうため、隣の獣舎に置いた餌で誘って移動させた。動かない時はお尻へホースで水をかけると、自ら腰を上げて歩いた。到着から約10日経った今はすっかり慣れ、水をかける必要はなくなった。佐藤園長は「移動すれば嫌なことは起きないと覚えさせた」。獣舎間の扉が開くのをソワソワしながら待つほどだ。
令は、秋田市大森山動物園で生まれた。同園の雄と、ロシアの動物園から無償譲渡された雌の繁殖が成功し、2019年に誕生した4頭の中の1頭だ。
同園飼育担当の主席主査柴田典弘さん(48)は「令は4頭の中で一番臆病で温厚なので、心を開くと飼育員がいる間はずっと『ン~、ン~』と甘え声を出していた。多くの人に愛されてほしい」と話す。
令は那須どうぶつ王国に来てから数日間は、飼育員を見ると獣舎奥に身を寄せて「グルル」と小さくうなっていたが、今は飼育員を見れば喜んで獣舎前へ体を寄せてくるようになった。(小野智美)
からの記事と詳細 ( 希少種の仲間迎え繁殖へ 那須どうぶつ王国、初のトラ飼育 - 朝日新聞デジタル )
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