マツキヨ大苦戦、ウエルシア絶好調のワケ ドラッグストア「7兆円」勝ち組&負け組の“差” から続く
【写真】“コロナ特需”のドラッグストアで「意外に売れたもの」とは?(全11枚)
今年4月の上場している大手ドラッグストアの既存店売上高は、上位10社のうち8社までが前年同月比でプラスとなっており、非常に好調だ(#1参照)。
4月は、コンビニの大手4社の既存店売上高が、全て前年同月より減収。スーパーの既存店売上高も、日本チェーンストア協会の発表では前年同月比4.5%減とマイナスになっている。対比して見れば、新型コロナウイルスの感染拡大を受けての緊急事態宣言の下、ドラッグストアがコンビニ、スーパーに勝る社会インフラとして認知されてきたということだろう。
2019年の売上が7824億円と業界1位のツルハHDを始め、業界上位10社のうち8社が4月の売上でプラス成長となっている(前年同月比) ©長浜淳之介
「化粧品以外はよく売れている」
ドラッグストアの商品には、医薬品、調剤、食品、生活雑貨、化粧品と、主要5分野があるが、「スギ薬局」を展開するスギHDによれば「化粧品以外は、どの分野もよく売れている」(同社・広報担当)とのこと。同業他社もほぼ同じ回答であった。化粧品が不振なのは、在宅勤務が増えたこととマスク着用で顔が隠れているから。既存店の4月売上が前年を割った2社(マツモトキヨシHD、ココカラファイン)は、化粧品の売上比率が高かった。
近年のドラッグストアは、薬ばかりでなく食品や生活雑貨が充実しており、スーパーの機能を取り込み、日常の商品をワンストップで買える便利さがあるのが、好調の要因だ。
では、実際にどのような商品が売れているのか。誰もが想像がつく、マスク、アルコール消毒液、体温計、トイレットペーパー、カップ麺、冷凍食品などの他に、意外な商品も上がった。“粉モノ”、バナナ、ヘアカラー……などなど、それらはなぜ売れたのだろうか?
ドラッグストアの売れ筋商品を研究してみた。
米は“一服感” 代わって売れた「食品」とは?
特に郊外のドラッグストアでは食品が充実しており、九州を基盤とする「コスモス薬品」では食品の売上比率が56%、北関東が地盤の「カワチ薬品」では46%など、医薬品以上に食品のシェアが高いチェーンも多い。
調剤に力を入れている「ウエルシア薬局」、「スギ薬局」でも売上の2割近くが食品であり、日々の集客を上げるために食品を強化している。
具体的な食品の売れ筋だが、スギでは、「米が前年より1.3倍の勢いでよく売れているが、ゴールデンウィーク以降は一服感がある」とのこと。
代わって、ホットケーキの素、たこ焼きの素のような“粉モノ”がよく売れている。子供の休校も3カ月目に入った地域も多く、母親の目線がおやつに移ってきたのだろうか。
加工食品のカップ麺、袋麺、パスタの乾麺、レトルトのカレーやパスタソース、冷凍食品、缶詰など、さっと食べられる食品群もよく動いている。
バナナが売れる「特有の事情」
「免疫力が上がると思われている、納豆、ヨーグルトの動きが良い。一方で、ゴールデンウイーク頃からお酒が全般に売れている」(カワチ薬品・広報)といった報告もある。自宅勤務、オンライン飲み会も普及してきて、居酒屋に行かずともお酒を楽しみたいというニーズが高まっている。
売場の工夫として、ウエルシアには、バナナがよく売れるのでレジ横にあえて販売コーナーを設けている店がある。スーパーでも、「バナナは子供が食べやすく値段も安いので、休校になってから売れている」(西友・広報)とのこと。
ドール・広報によると、「ドラッグストアには、バナナが売れる特有の事情がある」という。バナナは、日本で1世帯あたりの消費量が最も多い果物だが、果物を積極的に購入するのはシニア層というデータがあり、若い世代はあまり買わない。つまり、バナナはドラッグストアの顧客層に合った商品なのである。
それに、5月頃はイチゴの旬もそろそろ終わりで、スイカにはまだ早く、国産の果物の端境期にあたる。果物が食べたいとなると、自然にバナナが選ばれるのだ。
バナナの需要が高まっているのに対して、日本への輸入の85%を占めるフィリピンの生産地も、コロナが影響して移動制限が行われ、人手不足で出荷が追い付かない懸念がある。しかし、ドール、デルモンテなどの大手輸入業者は、「生産が減っているわけではない。南米のエクアドルなどの選択肢もあるので、極端な価格の高騰はないだろう」と、口を揃える。
「かぜ薬は売れたが、乗物酔いの薬は売れなかった」
医薬品も、院内感染リスクがある病院に行かず、身近なドラッグストアの市販薬で軽症の病気を治す、セルフメディケーションの考え方が、消費者に根付いたと考えられ、全般に好調だ。
特に、「かぜ薬が売れている」(スギ、カワチ)という指摘が聞かれた。
一方で、「旅行者が激減したため、ゴールデンウィークは乗物酔いの薬が、かつてないほど売れなかった」(スギ)という。手をよく洗うのでかえって手荒れするのか、「ハンドクリームが例年の1.5倍とよく動いている」(スギ)のも納得が行く結果だ。
調剤は、「処方箋枚数は減少しているが、通院間隔を開けるために処方日数が増えており、単価が増加傾向にある」(ココカラファイン)。また、コロナ感染拡大による特例として、電話での服薬相談が可能となっており、対応したチェーンは売上を伸ばしている。
手作りマスクが増えて「売れたもの」とは?
衛生用品ではマスクのみならず、関連商品として手作りマスクが増えたためか、ガーゼも売れている。マスクは需要が高いのに対して、まだ信頼に足るメーカーからの供給が足りず、全般に品薄が続いている。各店は、オープン前から毎日並んでマスクを買いだめする常連客対策から、朝の開店時からマスクを販売するのを取り止めている。
体温計も快調。血中酸素飽和度を測るパルスオキシメーターも売れている。血中酸素飽和度は、肺から体内に十分な酸素を供給できているかの指標となる。
アルコール消毒液は未だ欠品も多い状況だが、注目されるのは空間除菌剤。
「正露丸」で著名な大幸薬品は、二酸化塩素分子がウイルス、菌、においを除去しカビの生育を抑制する「クレベリン」を、2008年より一般家庭用に販売しており、スプレー型や置き型の製品がある。同社の2020年3月期決算(連結)は、「クレベリン」など感染管理事業が前期比92%増とほぼ倍増。売上高149億6600万円(前年同期比44%増)、営業利益38億2400万円(同88%増)と、売上、各種利益ともに過去最高を記録している。
「クレベリン」は、大阪府の75の医療施設、中国の武漢市などの5病院に、各1万個が寄贈されている。
なお、大幸薬品は二酸化塩素分子がインフルエンザウイルスの表面タンパク質を不活化すると検証しているが、「クレベリン」は雑貨の扱いで、新型コロナに効果があるとうたっていない。5月15日付で、消費者庁から携帯用の空間除菌用品販売事業者5社に行政指導が入ったが、大幸薬品は含まれていない。
自宅でのお菓子づくりブームで「売れたもの」
生活雑貨は、一時のパニックのような買占めは収まったものの、トイレットペーパーを中心に、紙おむつ、ティッシュペーパー、キッチンペーパーなど紙類が、好調を持続している。
また、「ゴールデンウィーク頃から自宅でお菓子作りがブームなので、ラップ、ホイル、フリーザーバッグが売れている」(ココカラファイン)傾向がある。
さらに、元来は秋冬の商品である入浴剤が、この時期に売れているのが大きな特徴で、「入浴による免疫力アップの報道の影響」(ココカラファイン)が働いた。「アロマ、リラックス効果のある商品、温泉系を中心に前年の5割増」(スギ)と売れている。
化粧品は厳しいが「例外的に売れているもの」とは?
化粧品は、今は女性たちが顔をマスクで覆っているので、口紅の売れ行きが特に厳しい。緊急事態が解除されても、人々が外出を控える傾向が続くと見られ、ファンデーション、アイメイク関連の商品も、当面厳しいと各社は見込む。
一方で、例外的に売れているのが、ヘアカラーだ。「美容院に行けないので、自分で白髪を染めている」(スギ)と、前年の5割増の売れ行きだ。
同じような理由で、ネイルケア商品もネイルサロンに行けない人が購入するため、スギでは2割増と販売を伸ばしている。
これから夏にかけ、季節商品の制汗剤、日焼け止めなどは、外出を控える傾向から期待薄か。一方で、家に籠っていれば殺虫剤、睡眠時に冷感を得られる「熱さまシート」のような商品、マスクをしていると喉が渇くので熱中症対策として経口補水液やスポーツドリンクの類は売れてくると見られる。
(【前回】マツキヨ大苦戦、ウエルシア絶好調のワケ ドラッグストア「7兆円」勝ち組&負け組の“差” を読む)
(長浜 淳之介)
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May 25, 2020 at 04:00AM
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