そのメスのワオキツネザルは、救護施設に引き渡された時点ですでに結核に冒され、衰弱していた。首の左側からは、ゴルフボール大の塊が突き出していた。2019年4月、マダガスカル南西部でのことだ。
治療のかいなく、キツネザルは3カ月後に死亡した。まだ1歳にもなっていなかったが、短い生涯のどこかで人間から薬剤に耐性をもつ結核菌をうつされたとみられる。「逆人獣共通感染症」と呼ばれる現象だ。
「誰かの家でペットとして飼われていて、結核に感染した人間から食べ物、食器、空気などを介して結核をうつされた」ことはほぼ確実だろうと言うのは、米サンディエゴ大学の人類学者マーニ・ラフルール氏だ。氏らのチームが記録した本事例は、米疾病対策センター(CDC)が発行する学術誌「Emerging Infectious Diseases(新興感染症)」3月号に掲載された。(参考記事:「動物大図鑑 ワオキツネザル」)
キツネザルは、107ある種のすべてがマダガスカルにしか生息していない。3分の1近くが国際自然保護連合(IUCN)により近絶滅種(Critically Endangered)に分類され、今回のワオキツネザルは絶滅危惧種(Endangered)に指定されている。マダガスカルでは1962年以来、ペットとしてキツネザルを取引することが禁止されているが、現在も国内で3万匹以上がペットとして飼育されていると見積もられている。
行楽地で見せ物にされたり、海辺で記念撮影用に貸し出されたりすることも多い。インスタグラムには、観光客が口にくわえたバナナをキツネザルに食べさせる写真が投稿されており、このような行為が病気を感染させる可能性を高めているとラフルール氏は言う(例えば、野生とペットのキツネザルの両方で、狂犬病の陽性反応が出た事例がある)。
ワオキツネザル(Lemur catta)とブラウンキツネザル(Eulemur fulvus)は、ペットとして特に人気がある。どちらも大きな家族集団で生活していて見つけやすいからだと説明するのは、マダガスカルの霊長類学者ジョナ・ラツィンバザフィ氏だ。
霊長類の研究・保護団体である国際霊長類学会の会長も務めるラツィンバザフィ氏は、ラフルール氏のチームにより報告された事例は「関係当局やキツネザルを違法に飼育している人びとに対する警告」だと述べている。
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