群馬・長野県境の浅間山(2568メートル)で確認される絶滅危惧種のニホンイヌワシが雄1羽のみになり、繁殖が見込めない状況となっている。原因は森林環境の変化。環境省信越自然環境事務所などは8月に「浅間山イヌワシ復活プロジェクト」を立ち上げ、イヌワシがすみやすい森林の再生に取り組む。(長尾明日香)
ニホンイヌワシ 北海道から九州にかけての山地に生息する大型猛きん類。国の天然記念物に指定されている。日光が当たると金色に光る後頭部の羽毛が特徴で、体長は80〜90センチ、翼を広げると2メートル前後にもなる。ノウサギやヤマドリ、ヘビなどを主な餌とし、寿命は約20〜30年。つがいを形成し、行動範囲は数千ヘクタールに及ぶ。環境省希少猛きん類調査によると、生息数は2004年に約650羽と推定されたが、日本イヌワシ研究会の調査では、14年に約500羽まで減っている。
「効果的な保全策を早急に実施しなければ、今、生息するイヌワシもいなくなってしまう」。プロジェクトに参加し、浅間山で生息調査をする長野イヌワシ研究会の片山磯雄代表は危機感を抱く。
イヌワシはつがいで縄張りを持ち、雌雄どちらかが死ぬと縄張りの外から来た個体とつがいが維持される。浅間山では1985年ごろまでにつがい2組が生息していたが、うち1組が2000年ごろから確認できなくなった。残る1組も20年ごろから雌が確認できなくなり、雄1羽しか見られなくなった。
個体数の減少はイヌワシが森林で狩りがしにくくなったためとみられている。
戦後、復興のために木材が必要となり全国の山地で多くの木が伐採された。その後も需要が増えたため、伐採跡地に成長の早い針葉樹が植えられた。浅間山ではカラマツなどが植えられたが、木材輸入の自由化に伴い国産木材の価格が低迷し、伐採量も減った。
伐採跡地はイヌワシにとって上空から獲物を見つけやすい絶好の狩り場となる。だが、浅間山一帯では、過去に植えられたカラマツなどが生い茂ったことで、獲物が見つけにくい状況になったという。
浅間山を管理する林野庁中部森林管理局東信森林管理署の東川俊彦さんは「木が伐採されず、密になると土が痩せ、大雨で土砂崩れが起きてしまうこともある。イヌワシにとっても人にとっても健全な森林環境を保つためにも適切な整備が必要」と話す。
プロジェクトは29年3月までの計画で、自然環境事務所とイヌワシ研究会、東信森林管理署、日本自然保護協会が参加。まずは雌を呼び込むために森林を整備し、つがいで安定的に生息できるようにする。樹木の伐採などを進め、部分的にイヌワシの狩り場となる広い開放空間を作っていく。伐採後は、獲物となるノウサギなどの生息状況や狩りの状況の調査も行う。生息環境を整えてもつがいが確認できない場合は、餌やりや動物園で飼育した個体を野生復帰させることも検討する予定だ。
他の地域での取り組みを基に助言する役割を担う日本自然保護協会の出島誠一さんは「全国でさらに取り組みを広げる必要がある。1羽のみの地域で、つがい形成ができた成功事例になれば」と浅間山での活動に期待を寄せる。
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